1ページ目から読む
2/2ページ目

歴史的大敗だからこそ、あとは上昇あるのみ

 手元にある2冊のスクラップブックを手に取ってみる。記念すべき1ページ目には「石川 セ2人目 開幕戦5勝」と大見出しが打たれている。北別府学の6勝に次いで、セ・リーグ2人目となる開幕戦での5勝目をたたえる記事だった。雨の日の神宮球場で、「今季はすごいぞ!」と歓喜に震えたのは、はかない夢だったのだと、あとで気づいた。

 その2日後には早くも日刊スポーツの1面をヤクルトが飾っている。「史上初の鵜久森 代打サヨナラ満弾!」とあり、打球の行方を確認しながら一塁に走る鵜久森淳志の姿が躍っている。ベンチの中をよく見ると、真中満監督と三木肇ヘッドコーチが抱き合っている姿も確認できる。この瞬間、僕はライトスタンドの片隅で「今年の優勝は決まった!」と確信したのだが、それは単なる早とちりだと、すぐに気づいた。

 以降も、印象的なゲームはいくつもある。そのほとんどを僕はスタジアムの片隅で見続けていた。再び1面を飾ったのは5月15日付のことで、そこには「満開弾 荒木 サヨナラ」と大見出し。14日、松山・坊っちゃんスタジアムで行われた中日戦で、荒木貴裕が見事な満塁ホームランを打った。この試合も僕は松山で見届けている。

ADVERTISEMENT

 しかし、この頃にはすでに借金生活が始まっていた。交流戦ではまったく勝てず、6月9日付ではすでに「9連敗自力V消滅」と報じられている。同27日付では、後に物議をかもすことなる「ライアン守護神転向」という記事も目に飛び込んでくる。そして迎えたのが7月7日、俗に言う(僕が勝手に言っているだけなのだが)「七夕の惨劇」だ。この試合については、文春野球でも書いたのでここでは何も述べるまい。詳しくは「七夕の惨劇――あの日の夜を忘れない」をどうぞ。

 その後、「真中ヤクルト14連敗」(7月21日付)を経て、またまた一面を飾ったのが7月26日付、「史上最大の逆転 ヤ 0-10、11-10」と題された記事で、10点のビハインドを大逆転したミラクルゲームだった。しかし、やはりチームは波に乗ることはなかった。8月になると「真中監督退任報道」が紙面をにぎわせ、21日付にはついに「真中監督辞意」の文字が躍った。涙で滲む日刊スポーツ……。

 そして悲しみはなおも続く。9月28日付では、「伊藤コーチ辞任」の報道が……。さらに10月2日付には、小さな文字で「95敗…球団新」と出て、最終戦の敗戦を報じる4日付では、「最悪更新96敗 退任真中監督 涙流し胴上げ」で幕を閉じた17年シーズン。

©長谷川晶一

 何もいいことがなかったように思えるシーズンだったけれど、改めて振り返ってみれば、それなりに劇的で、それなりに感動的な試合もたくさんあり、そしてどうしようもないほどの敗戦が積み上げられている一年だった。真中監督は去り、伊藤コーチもユニフォームを脱ぐ。文春野球において、「この神宮の片隅で、飯原誉士の『不安』を味わう」と書いた飯原誉士もチームを去ることが決まった。

 まさに有為転変。ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。いろいろあった17年シーズンだが、絶望のどん底に沈んだ今。ここまでくれば、あとはもう上がるしかないだろう。堕ちりゃ、地獄の底もある。生きよ、堕ちよ。今の僕は鴨長明であり、坂口安吾の心境でもある。

 ヤクルトファンのみなさん、今年の経験は、我々にとって決して無駄にしてはいけないし、絶対に無駄にはならないはず。小川淳司監督、宮本慎也ヘッドコーチの下、新生東京ヤクルトスワローズに期待をして、来るべき2018年シーズンを迎えようではありませんか! 我々は死なず! ヤクルトは再び輝く! その姿をしっかり見届けようではありませんか! レギュラーシーズンの原稿としては、本稿がラストとなります。文春野球で戦い抜いた一年間。僕にとって、忘れられない一年となりました。読者のみなさま、本当にどうもありがとうございました。またどこかで、いや、神宮球場でお会いしましょう!

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/4463  でHITボタンを押してください。