浦田さんと吉田さんは定期的にコミケ向けの同人誌を作り、それらを『犯罪事典』としてまとめた。同人誌版には事件背景などをコラム形式で載せていたが、書籍化にあたっては事件そのものに関係ない記述を大幅にカットし、より淡々と読み進められる形にしたという。
「読み物としては事件の背景も記載した方が面白いでしょう。しかし書籍として世に出す以上、事件の背景はもちろん事件に登場する第三者の情報や不確定情報、逮捕容疑以外のスキャンダルに関する記述を削るなど、選手のプライバシーに最大限配慮しました。また、最初に同人誌を作る段階で選手を感情的に叩いたり、怪しげな噂話を載せるのは避けようと方針を決めています。それでもこの本の存在が誰かを不快にさせる可能性があることは否定しませんが、現時点でのまとめ方が我々なりの決着点だと考えています」
事件の真偽の確認のため台湾の図書館へも
野球選手絡みの事件は、ウィキペディアの選手個人のページにもある程度記述がある。しかし本書はそれ以外の一般的にはほぼ知られていない事件も網羅している点に驚かされる。一体どのように調べたのだろうか。
「最初は、ネット上に残る昔の2chなどに出回っていた球界犯罪者一覧のコピペを参考にしました。それらの真偽を一つ一つ確認しつつ、さらに見落とされている事件がないかと検索エンジンやデータベース等で調べたところ、結果的に当初予想していた倍以上の数の刑事事件を把握できたのです。
ウィキペディアも参考にしましたが、日本版ウィキペディアは野球選手に限らず、犯罪情報を各ページの管理権限者が“その人物の記事において必要な主たる情報ではない”と削除することが多く、有名な選手や事件じゃないと記載されない傾向があります。むしろ外国人選手の方が英語版ウィキペディア等に事件の詳細が記されており、事件の存在さえ把握できれば、おおまかな事実関係を調べたり、関連記事を探すのに利用しやすかったです」
浦田さんたちは事件の真偽の確認のため国会図書館はもちろん大宅文庫、野球殿堂博物館の図書室などに赴いて調査を重ね、遠く台湾の国家図書館も訪れたという。そうして事件を報じる新聞や週刊誌の記事など、確実性の高いソースに徹底的にあたることで資料性の高い労作が完成したのである。