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正真正銘のスリラーを手がけてみたかった

 ライトがこの物語に惹かれた理由のひとつは、主人公の視点を信じていいものか、観客を惑わせる部分にあった。アナは多くのことを目撃するが、薬やアルコールを飲んでいるし、情緒不安定で、彼女が見ていることは本当なのか、疑ってしまうのだ。

 

「そういったストーリーに昔から惹かれてきたんだよね。僕が監督した『つぐない』もその要素があるし、『羅生門』は僕が大好きな映画のひとつだ。また、スリラーを作ってみたかったというのも理由のひとつ。『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』は政治スリラーだったが、もっと正真正銘のスリラーを手がけてみたかったんだよ。しかも、僕は、これを普通のスリラーより一歩上をいくものにもしようと思った。スリラーは、知性に働きかける。『誰がやったのか』『どうやったのか』と。そこはもちろん満たしたかったが、同時に、とても感情的な映画にもしたかったんだ。そのふたつのバランスを取るのは、なかなか難しかったね」

 
 

 ひとつ前の作品「ウィンストン・チャーチル~」は、6部門でオスカーにノミネートされ、ゲイリー・オールドマンが主演男優賞、カズ・ヒロ(当時は辻一弘)がメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞している。京都出身のカズ・ヒロは、特殊メイク界の巨匠リック・ベイカーのもとで働いた後、独立して活躍したが、その頃にはファインアートに専念すべく、映画の仕事から引退していた。しかし、「ウィンストン・チャーチル~」で初のオスカーを受賞し、早くもその2年後には「スキャンダル」で2度目の受賞を果たすことになったのである。彼のキャリアに再び弾みをつけてあげたことを誇りに思うかと聞くと、ライトは謙遜しつつも、「ああ、彼に、僕のおかげだと言っておいてよ。次に仕事を頼む時、安くしてくれるかもしれないから」と冗談を言って笑った。

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「カズ・ヒロは天才。『スキャンダル』で彼がやってみせた仕事は、とりわけすばらしいと思った。どこをどうやったのかよくわからないのがすごい。あれには魅了されたよ」