SNS上で度重なる誹謗中傷を受けたプロレスラーの木村花さんが、22歳で自らの命を絶ってから間もなく1年となる。木村さんは死の直前、「毎日100件近く率直な意見。傷ついたのは否定できなかった」とツイッターに綴っていた。しかし、警察は悪質な書き込みをした犯人を2人しか立件できておらず、「ネットいじめ」を巡る捜査の限界が浮き彫りになった。その背景には警察を阻む“2つの壁”があった。
2020年5月23日、木村さんは東京都内の自宅マンションで変わり果てた姿で見つかった。木村さんはプロレスラーとして活躍する傍ら、フジテレビの恋愛リアリティーショー「テラスハウス」に出演していた。番組は男女6人によるシェアハウス生活を記録するという仕立てで人気を集めていたが、“事件”は20年3月31日に起きた。
プロレスのコスチュームを誤って洗濯した共演者の男性に木村さんが激高する放送回が、動画配信サービスNetflixで先行配信されると、その直後から、SNS上に「死ね」「気持ち悪い」「消えろ」といった匿名の書き込みが相次いだのだ。
殺人などの凶悪犯罪を扱う「捜査一課」が動いた理由
「テラスハウス」は海外でも人気の番組だったため、木村さん急逝のニュースは瞬く間に世界を駆け巡った。SNS上では「ネットいじめ」を非難する投稿が拡散。政府や与野党がすぐに誹謗中傷対策に乗り出すほどの社会的ムーブメントに発展した。そんな中、「いずれ刑事事件になる」と想定して密かに動き出したのが警視庁捜査一課だった。
警視庁の中でも、殺人などの凶悪犯罪を扱う捜査一課がなぜ入ったのか。捜査関係者が解説する。
「一課の中にはネットを悪用した脅迫事件などを専門とする部署があり、通称『ハイテク係』と呼ばれている。去年だと、電通や全国の大学などに届いたネット上の連続爆破予告も担当した“職人集団”だ。木村さんの死後、『まずい』と思った人たちが一斉にツイッターの書き込みを消去し始めていた。誹謗中傷事件を立件するためには遺族からの告訴がないといけないが、告訴を待っていては、その間に証拠がどんどん消されてしまう。将来的に遺族が告訴してくれると信じ、ハイテク係に急いでツイッターを解析させることになった」