「誹謗中傷のない世界にしたい」遺族の苦渋の選択
木村さんが亡くなってから7カ月近くたった2020年12月17日、捜査一課は「性格悪いし、生きてる価値あるのかね」「ねえねえ。いつ死ぬの?」と書き込んだ大阪府の20代男を書類送検した。実を言えば、この男は捜査一課が自力で突き止めた人物ではない。木村さんの自死から1カ月後、遺族に自ら名乗り出て謝ってきたため、“幸運にも”身元が判明していたのだ。
遺族は当初、この男を許したため捜査一課も立件できないと考えていた。しかし、捜査一課では、他の容疑者を割り出せなかった以上、これまでの捜査が水の泡になりかねない状況に追い込まれていた。捜査一課と遺族が話し合った結果、遺族は「苦渋の選択だが、世間に公表して知ってもらい、誹謗中傷のない世界にしたい」との思いで告訴するに至ったという。
今年4月5日には、「死ねや、くそが」「きもい」「かす」と投稿した福井県の30代男を書類送検した。この男を割り出せたのは、遺族がアメリカの裁判所の証拠開示制度「ディスカバリー」を使って今年3月に個人情報を何とかツイッター社に開示させ、捜査一課に提供していたという経緯があったからだった。
書類送検された2人の男に対する刑罰は3、4月にそれぞれ決まったが、いずれも9000円の科料にとどまった。木村さんが亡くなってから間もなく1年。侮辱罪の時効も1年しかなく、ここから新たな容疑者を掘り起こすのは難しいとみられ 、多くの“逃げ得”を許してしまう。
「SNSの誹謗中傷は最悪の結果を招くかもしれないのに、立件できない、できても罪が軽いとなれば抑止効果は薄い」
捜査員たちは悔しさをかみしめている。