昨オフに引退を一旦は決心した。だが、あのダルビッシュ有からの“直電”で翻意。今シーズンから育成選手として再出発した右腕がいる。

 背番号139となった、吉住晴斗だ。

 2017年のドラフト会議で1位指名を受けて鶴岡東高校(山形)からホークスに入団。高校時代から最速151キロを誇り、何よりも優れた身体能力を高く評価されていた。しかし、3年間で一軍には一度も呼ばれず、ついに昨年11月18日に球団から次シーズンの支配下契約を結ばない旨を通告された。

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 それと同時に、球団からは育成選手としての契約を打診されていた。もともと超素材型で時間はかかると言われていたから、ホークスも簡単に手放すはずがなかった。

 だが、吉住はその申し出にも安堵の表情を浮かべることはなかった。特に言葉に力を込めるでもなく「考えさせてください」と結論を出さずに席を立った。

 表向きは保留だが、腹の中はある程度固まっていた。

 球団事務所があるPayPayドームから外に出ると、何名かの報道陣が待ち構えていた。もともと表情豊かなタイプではないし、軽口な方でもない。重たい雰囲気の中で「結論はこれからです。だけど、結論を出すのに長くはかからないと思います」と取材に応じ、さらに「今は野球に対する気持ちが切れかかっている部分もある」とつい本心をさらけ出した。

 あの場でそこまで話す必要はなかったかもしれない。だけど、言ってしまった。もう後戻りはできない。

 しかし、その直後。事態は急激に動き出す。

「ダルさんに連絡先教えていい?」

 まずはホークスの先輩である石川柊太から連絡が入った。「ダルさんに連絡先教えていい?」。石川は千賀滉大と一緒にオフにダルビッシュのもとを訪れて合同自主トレを行っていた。吉住もそれは承知していたが、最初は石川の言ってきた意味というより目的が理解できなかった。冷静になっても「なぜ?」しか頭の中を巡らない。

 だが、ほどなくして、本当にダルビッシュから直接連絡があった。

 そこからLINEでのやりとりが始まった。面識はまったくない。だけど、ダルビッシュが心から自分に寄り添ってくれていることはすぐに分かった。温かな言葉がいくつもあった。その中の「もったいないんじゃないか?」という文面に、吉住の心は大きく揺さぶられた。

「憧れて、ずっと見ていた人から話をしていただき、やれるときに自分からやらないのは違うと思った」

 あの非情の通告から20日後の12月8日。吉住は再びスーツで球団事務所を訪れた。契約書にサインして、ハンコを押した。

 吉住が育成選手として再契約したとのニュースが流れると、海の向こうにいたダルビッシュもすぐさま反応。「朝起きたら吉住選手からLINEが来ていて再契約を知りました! この短期間での切り替えや、すぐに前を向けるところにさらにセンスを感じました。連絡先聞くのに石川くんを叩き起こしてしまったのは申し訳なかったです」と笑顔の絵文字付きで自身のツイッターに書き込んだ。

 気持ちを新たにした吉住は「一軍で投げる目標は変わらない。そのためにも、もう1度支配下に戻ることが目標。契約していただいたので全力で野球にもう1回取り組む」と決意を口にした。