プロ野球でこうした違反行為がおこなわれていることは、しばしば耳にしていた。
しかし、まさか突然自分の身に降りかかってくるとは、夢にも想像していなかった——。(『プロ野球 FA宣言の闇』(亜紀書房)より 全2回の1回目/後編へ続く)
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球団編成部スタッフからの電話
パ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)・ファイナルステージ、埼玉西武ライオンズ対福岡ソフトバンクホークスの頂上決戦が真っ只中の2019年10月某日。
取材に出かける準備をしていると、スマホが鳴った。画面の着信表示を見ると、何度か飲みにいったことがある、某球団の編成部スタッフからだった。
球場で顔を合わせることはときどきあるが、電話がかかってきたのは初めてのことだ。
宮崎県で若手の育成を主目的に開催されているフェニックス・リーグを視察中だというその編成担当は、軽い近況報告を済ませると、本題に入った。2019年シーズン中にフリーエージェント(FA)権を獲得した西武の右腕投手、十亀剣(とがめけん)の去就について探ってきたのだ。
私は西武の取材をよくおこなっているが、十亀とは球場で会った際に取材や挨拶をするくらいの間柄だ。まったくもって彼の胸の内を知るよしはない。
「ちょっと様子を見て、聞いてみてくれない?」
いや、一つだけ知っていたことがある。
梅雨が終わりを告げた頃、取得したばかりのFA権について十亀にたずねると、複数年契約を欲していた。あくまで一般論としての話だ。残留や移籍を見越しての答えではない。しかも取材時からすでに数カ月が経ち、もう心変わりしている可能性もある。この話はインターネット媒体のコラムにも書いており、編成担当にもそのまま伝えた。
「そうなんだね。複数年契約を欲しがっているのか」
編成担当はそう語ると、突如、電話越しに“条件提示”を始めた。
「うちに来れば●●●●万円くらいの年俸を出すことができる。インセンティブをつければ、今の年俸より条件もよくなるはずだ。起用法としては先発として考えている。うちでは先発の五、六番手を争う扱いになると思うけど、一年間ローテーションで回ってほしい。悪くない話だと思うんだよな。ちょっと様子を見て、十亀にこんな話があると聞いてみてくれない?」
最初の世間話と同じトーンで“条件提示”してきたことで、この編成担当にとって、同様のやりとりは日常茶飯事なのだと想像できた。