世界のプロスポーツで「フリーエージェント」という制度が最初に誕生したのは一九七六年、アメリカのMLBだった。NPBでは遅れること17年、1993年オフに導入された。
ただし、日米の「フリーエージェント」には決定的に異なる仕組み(思想)がある。「Free Agent」という英語が意味するのは、「自由契約」だ。NPBで使われている自由契約という言葉には、まるでクビになったかのようにネガティブな意味合いが含まれている一方、MLBのそれは文字どおり、選手が自由に契約できることを意味する。8軍からなるMLBでは、1軍にあたるメジャーリーグに6年在籍すれば選手と球団の契約は満了となり、選手は“自動的”にFAになって移籍先を自由に探すことができる。
対してNPBの場合、高卒は8年、大卒・社会人出身は7年の1軍登録日数に到達すれば国内FA権を取得できるが(海外FA権はいずれも9年)、それだけでFAになれるわけではない。FAになることを選手自ら「宣言」しないといけないのだ。(『プロ野球 FA宣言の闇』(亜紀書房) 全2回の2回目/前編から続く)
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「フリーエージェント」という和製英語の曲解
「宣言させるのは、選手への“踏み絵”ですよね。2018年だったら丸(佳浩/広島→巨人)や浅村が自チームに仇(あだ)をなしたということに、形上はなるじゃないですか」
かつて横浜ベイスターズ(現DeNA)や広島東洋カープ、西武でプレーし、現在プロクリケット選手として活動する木村昇吾(きむらしょうご)は、自身がFA宣言したときの経験を踏まえてそう話した。
英語をカタカナの“和製英語”に変換し、本来の意味を曲解するのは日本人の悪い習性である。「Free Agent」が「フリーエージェント」へと日本球界独自の定義をなされた際、なぜ、選手に「宣言」させるというハードルがあえて加えられたのだろうか——。