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9割超が“行使せずに残留” プロ野球「FA制度」はなぜ使いにくいのか

『プロ野球FA宣言の闇』#2

2020/10/29
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FAという制度に込められたさまざまな思惑

 頭に浮かんだ疑問は、インターネットでいくら検索しても解決できなかった。過去の新聞記事や文献を当たっても、その答えはまるで見つからない。

楽天入団した浅村栄斗 ©️時事通信社

 それならば……と思って自分自身で取材を始めると、想像をはるかに超える難問が待っていた。FA制度が成立したのは25年以上前の話であり、当時の関係者たちはほとんど球界を去っている。すでに鬼籍に入っている者も少なくない。

 長期戦を覚悟して取材を続けると、数人のキーマンに出会えた。そして、FAという制度に込められたさまざまな思惑や、「導入ありき」で検討された悪影響が浮かび上がってきた。

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「FAの権利をとるまでは『楽しみだ』と言っていた選手が、『とってみたら使いにくく、ガッカリした』と言うのをよく聞いたりします」

 そう話したのは、日本プロ野球選手会の事務局長を務める森忠仁(もりただひと)だ。森自身、阪神タイガースで6年間プレーしたことがあり、選手たちの気持ちはよくわかるはずだ。

 毎年秋になるとファンの注目を集めるFAだが、一部のトップ選手しか権利を行使していないのが実情である。2019年には72人の日本人選手が資格を取得したものの(引退、戦力外、自由契約、退団は除く)、FA宣言したのはわずか六人で、九割超に当たる六六人が「行使せずに残留」を選択した。この事実は、FA制度の“使いにくさ”を何より物語っている。

 不自由なフリーエージェント——。

 選手会は当初、1軍と2軍を合わせたプロ野球選手の「全員」を対象として、自由に移籍できる権利を求めて行動を起こした。にもかかわらず、これほど使いにくい制度がどうしてでき上がり、現在も大きく変わらないまま運用されているのだろうか。