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筒香のホームランを見た少年たちへ

 今シリーズは、テレビでも球場でも試合が始まると不思議とDeNAを応援している自分がいた。ロペスの存在に加えて、当然「セ・リーグを舐めるなよ」という気持ちもある。それにしてもこの時期の屋外ナイター観戦は冷える。温かい飲み物を求める人やトイレに行く人の出入りがいつもより激しい。だが、ソフトバンク柳田悠岐とDeNA筒香嘉智の打席では不思議と人の流れが緩やかになる。「試合には負けたけど、この選手のフルスイングが見れたからまあいっか」とか「あと1打席見てから帰ろう」なんてファンに思わせてくれる打者が今の球界に何人いるだろうか。いわば彼らは観客をトイレに行かせない選手である。この時ばかりは贔屓チームの垣根を越えて、数万人がみんなその打席に注目する。大げさだと思われるかもしれないが、球場の時間の流れが微妙に変わるわけだ。

 テレビ観戦していた第5戦、筒香は4回の第2打席でシリーズ初本塁打となる勝ち越し2ランを放った。バンデンハークの153キロのストレートを左中間スタンドへ。とにかく前打席から直球で押しまくるバンデンハークに対して、日本の4番の凄味を感じさせてくれたひと振り。文春野球の横浜担当・西澤さんは「今日の筒香のホームランね、マジで打つ前にもうホームランだってわかったんだよ」とツイートしていたが、なぜか自分も同じような空気を感じた。そして、あるシーンを思い出した。2002年10月10日、東京ドームでヤクルト五十嵐亮太が巨人の4番松井秀喜に対して全球ストレート勝負を挑み、ゴジラが左中間スタンドへ50号アーチを叩き込んだあの試合だ。誰もがホームランを期待する場面で、本当に文句なしの一発を放ってみせる。今の筒香には、全盛期の松井のような打席の雰囲気を感じることがある。もし自分が子どもなら、間違いなくファンになっていただろうなと思う。

第5戦、4回2死二塁から逆転2ランを放った筒香 ©共同通信社

 ハマスタで驚いたのはDeNAの野球帽を被ったキッズファンの多さだ。神奈川県内の子どもたちに72万個を無料配布した効果はやはり絶大である。彼らは筒香のホームランに何を思っただろうか? いつの時代も、大一番でのホームランは誰かの人生を変える力がある。今から28年前、89年10月26日に行われた巨人vs近鉄の日本シリーズ第5戦、7回裏にここまでシリーズ18打席無安打と極度の不振に苦しむ巨人の原辰徳が満塁本塁打を放った。起死回生の劇的な一発。映像を確認すると歓声を越えた、悲鳴に近い絶叫が聞こえてくる。

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 いまだに語り継がれるこの満塁弾を偶然にも東京ドームの客席から見ていたひとりの少年がいた。彼はやがてプロ野球選手となり、巨人で主軸を打ち、なんと原の後を継いで監督になった。その少年とは、当時14歳の高橋由伸である。

 残念ながら、2017年日本シリーズはDeNAが王者ソフトバンクをあと一歩まで追い詰めるも、最後はサヨナラ負けで力尽きた。だが、挑戦者として挑んだ激戦の数々は確かに未来へと繋がっている。プロ野球は永久に終わらない連続ドラマだ。

 あの夜、筒香のホームランを横浜スタジアムで目撃した少年が、いつの日か立派なプロ野球選手として帰って来ることを楽しみに待ちたい。

 See you baseball freak……

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対戦中:VS 千葉ロッテマリーンズ(梶原紀章)

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