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何で中島は最終戦に間に合わせたのか

 決めてかかっていたといえば中田も同じだ。この試合、中田のビッグプレーは7回裏、藤田一也のライン際の強いゴロに飛びついて好捕、倒れ込んだままベースカバーの有原へトスした「守備の人」としてのものだが、中田といえばでかい当たりを打つとばかり決めつけていた。ゴールデングラブの守備力を忘れていた。

 勝敗に関係ないシーンでいうと銀次が圧倒的に面白かった。僕は銀次が終わったら早く次の銀次にまわって来ないかと思うのだ。バッティングの無理のきき方がすごい。この日も内角球をレフトへ流し打ちしていた。あぁ、ファイターズ戦の「次の銀次」は来年なんだな。

 個人的にジーンと来たのは8回、鍵谷陽平にスイッチ(60試合登板!)したタイミングで、ショートに中島卓也が入ったことだ。8月末、右内腹斜筋筋挫傷で戦列を離れ、今季絶望かなぁと思っていた。9回裏、最後の打者・茂木栄五郎の当たりはショートゴロだった。これはたぶんファイターズの全員がしっくり来たと思うのだ。今シーズンの最後のアウトは、必死にリハビリし最終戦に間に合わせた中島のところへ飛んだ。

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 何で中島は最終戦に間に合わせたのか。CSもない。順位争いもない。個人記録もかかってない。何にもないのだ。読者の皆さんには合理的な説明がつけられるだろうか。この1試合に間に合って8回から守備についたって誰も褒めてくれない。意味がわからない。

 それは僕なりの言い方をすると、野球選手は野球をするからだ。だから中島はけんめいに最終戦に間に合わせた。だから大谷は大きなものを背負う。だから中田はゴロに飛びつく。だから有原は思うようにならないと「あぁ、これはいかんなぁ」という顔をする。

 それをもっとバカみたいな言葉に置き換えると、野球チームは野球をするからだ。戦列離脱しても、チームを離れても皆、戻ろうとする。近藤健介や中島卓也は戦列復帰するとき、それが何のためかなんて考えなかった。吉井理人コーチや高橋信二コーチはチームへ戻るとき、それが何のためかなんて考えなかった。言ってみれば自然修復力みたいなことだ。

 ファイターズは最終戦に3対1で勝利した。有原は10勝目、増井は27セーブをものにした。シーズン成績はやっと60勝に届いた。これで全日程が終了。おつかれさん。平手打ちを食らうように、野球選手・野球チームが野球をしない季節がやって来る。

5月27日の中田翔選手プレイヤーズスペシャルで配られた学習帳 ©えのきどいちろう

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