一体なぜ宇都宮で路面電車なのか
が、一体なぜ宇都宮で路面電車なのか。そもそも宇都宮市のある栃木県は人口1000人あたりの車保有台数は全国2位、国内屈指の“車社会”である。それに、かつて東京や大阪、福岡などの大都市にも多数の路面電車が走っていたが、高度経済成長期以降に姿を消してしまった“過去の遺物”。今でも広島電鉄をはじめ全国で19事業者が路面電車を走らせているが、それらも全盛期と比べれば規模を縮小しているケースが多い。そんな中で、大“車社会”の宇都宮でこんな時代に路面電車を計画するワケは……。
「車社会なのはおっしゃる通りで、市内の渋滞がかなり深刻な問題となっていました。特に市東部にある工業団地に向かって鬼怒川を渡る橋では通勤時間帯にとてつもない渋滞ができてしまう。そこで大量輸送能力のあるLRT(ライトレール・トランジット)を導入することで通勤需要に対応しつつ渋滞緩和を図る。これが大きな狙いのひとつです」
「渋滞は大幅に改善されるはず」
こう話してくれたのは、宇都宮市建設部LRT整備室協働広報室の安納正和室長。複数の工業団地をあわせると従業員数は3万人を超えるという。これだけの人の通勤を一手に担える手段としては、確かにLRTはピッタリである。ただ、LRTは“道路上を走る”交通機関。となると、LRTがじゃまになってかえって渋滞が悪化する懸念もありませんか?
「いえ、LRTが走る道路は拡幅し、鬼怒川を渡る前後の区間は既存の道路とは別に専用軌道として建設します。ですから渋滞が悪化するようなことはほぼないでしょう。通勤で車を使っている方にLRTでの通勤に切り替えていただければ、交通量も減るのでむしろ渋滞は大幅に改善されるはず」(安納室長)
なるほど。実際に国交省から事業計画が認可されているだけあって、周到に考えられた計画のようだ。けれど、もうひとつ気になるのはそのLRTの敷設エリア。宇都宮駅東側は市の中心市街地とは反対側で、市民の大半や“宇都宮餃子”を目当てに訪れる観光客にはあまり関係なさそうな気もする。
そんな疑問に対して、中尾さんは「もちろん将来的には市の西部、中心市街地に乗り入れる予定です」とキッパリ。
「東部の工業団地から中心市街地、さらには西部の学校が多く立地するエリアや観光地として注目が高まっている大谷資料館の近くまでLRTを走らせる。これではじめて宇都宮のLRTは完成すると思っています」(中尾さん)