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バス会社も宇都宮ライトレールに出資している

 実はもともとこのLRT計画は市の西部、中心市街地に走らせるものだったという。JR宇都宮駅から東武宇都宮駅にかけては市内のバス路線の大半が通ることもあり、朝にはバスが数珠つなぎになって渋滞を起こすほどの区間。そこに「専用道路」を持つ路面電車があれば便利じゃないか、というわけだ。しかし、バス会社や市民からの反対もあり、具体化するには至らなかった。そこで市の東部に切り替えて事業認可取得までこぎつけたのだ。今ではバス会社も宇都宮ライトレールに出資しており、賛成の立場に転じている。

「そもそもね、車社会の宇都宮ですから、なかなか『ライトレール』『路面電車』と言ったってピンと来ないんです。だから市民の反対も多かった。だってどんなものかわからないのに総事業費450億円と言われたら、そりゃ反対しますよね。でも実際は国が半額の補助をしてくれるし、採算も土日の利用ゼロと見積もっても平日1日1万6000人が利用してくれれば問題ない。工業団地は3万人以上が働いているんですから、決して無茶な数字ではありません。それに、工業団地に関して言えば物流の観点からも渋滞は深刻なんです。通勤の渋滞にハマってトラックが工場に来られない。このままほうっておくと、企業が出ていってしまいますよ。そうなったら宇都宮は大打撃。だから、工業団地の企業に今まで通り宇都宮に留まってもらうためにもLRTは欠かせないものなんです」(中尾さん)

名物でもある広島の路面電車 ©iStock.com

 中尾さんはLRTのメリットをさらに語る。

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「LRTは超低床電車ですから究極のバリアフリー。富山では富山ライトレールの開通でお年寄りの外出が増えて健康増進にもつながって、結果的に医療費の削減にも繋がったそうです。高齢者がどんどん増える時代ですから、こうした副産物があるのも大きいですよね。それに、『LRTのある町』というイメージだってバカにできません」

 確かに、中尾さんの古巣・広島のイメージは、カープ・お好み焼き・路面電車である。そして中尾さんは、阪急電鉄創業者にして宝塚歌劇団の創始者でもある小林一三の名言「乗客は電車が創造する」を引いて、「乗客は軌道が創造する」と続ける。

「すでに計画が決まって効果は出ているんです。工業団地の近くにあるテクノポリスでは人口が増えて新しく小学校ができたくらいですし、沿線の地価も少しずつ上昇している。反対意見もまだまだありますが、一方で『早く中心市街地にも通してくれ』という声もありますよ。それに、今年度中には車両を決めてデザインを発表します。『宇都宮の町をこんな車両が走る』というイメージができるんです。そうすれば、今までライトレール、路面電車にピンときていなかった人もきっとわかってくれる。『ああ、宇都宮に新しい名物ができるぞ』とね」(中尾さん)

函館の市電もシブい ©iStock.com