広島にもいた雨と戦う男たち
セ・リーグのクライマックスシリーズ・ファーストステージは雨との戦いだった。甲子園球場はこれまで見たことのないほどの水溜りができていた。縦縞、青のどちらのユニホームも真っ黒に染まり、真っ黒なスパイクの足元を気にしながらも、誰一人諦めない強く熱い表情が見えた。これぞ泥仕合ならぬ泥試合。雨天中止をはさみ、阪神との接戦を制したDeNAが、広島に乗り込んでくる。
同じ頃、広島にも雨と戦う男たちがいた。マツダスタジアム・正面入り口前に列をつくるカープファンである。広島も毎日シトシトと雨が降り続けていたが、そこにテント2つと、ビニールシートが約10枚ほど貼られていた。厚手の上着が必要なほど冷え込む雨の夜、小さな屋根で雨宿りをしていた二人のおじさんに話を聞かせてもらった。
2017年にマツダスタジアムで開催された全試合を内野自由席で観戦したという一人のおじさんは、辛い顔ひとつ見せず、門が開く日を待ちわびていた。シーズン中、毎試合並び、同じ席を目指してきた。73試合の思い出をもつその席でCSも応援したいという気持ちから、何日間も並んでいるという。実際のところ何日前から並んでいるのかは企業秘密だと言われたが、わたしが知る限り10月13日にはすでに「先頭」と書かれたシートは貼られていた。他の10枚のシートのように、シートを貼るだけの席取りはルール違反だと考える彼らは、24時間を4部制に分け、老若男女の仲間で交代して常に誰かがいる状態にしているという。
CSファイナルチケット獲得の倍率は平均で約47倍。これは宝塚音楽学校の入試倍率並みと言われている。その狭き門をくぐりぬける強運を持った男たちは、食欲・性欲・睡眠欲という人間の三大欲求よりもカープ欲を優先し、席獲得のために力を注いでいた。彼らの願いはただ1つ、CSの突破、そして日本一である。