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直前の試合中止はアスリートを壊す…32歳プロボクサーが“タイトルマッチ直前”に明かした本音

直前の試合中止はアスリートを壊す…32歳プロボクサーが“タイトルマッチ直前”に明かした本音

藤井貴博さんが語る「緊急事態宣言とアスリート」

2021/06/16
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 ボクシングって運動強度が高いじゃないですか。場合によっては、マスクしてるほうが危ないケースも多々あると思うんです。でも、上の組織が指針を出していて、加盟ジムは守らなくてはいけない。今、みんな思考停止しちゃって、それが当たり前になってしまっていますが、よくよく考えると奇妙じゃないですか。そもそも、ボクシングは汗や血が飛び散るスポーツです。何もしないよりマシだとは思いますが、マスクはもう感染を防ぐというよりも、「ちゃんと対策してますよ」というポーズの部分が大きいんです。しょうがないですけど。

五輪選手が“ストレスのはけ口”になっている

 ボクシングだけではありません。オリンピック・パラリンピックも1年延期になって、さらに中止を求める声も上がっている。そのせいで、五輪選手の中には、うつ気味になってる人が多いのではないでしょうか。

 アスリートってみんな、その試合に向けて、すべての人生を賭けて来てるんです。五輪選手だって、純粋にオリンピック・パラリンピックという世界最大の舞台で、目標を達成するために、膨大な時間をかけてきている。彼らにとっては政治でもなんでもなく、純粋な発表の場に過ぎないわけです。その夢の舞台が奪われるかもしれない。それに、開催に賛否両論が起こって、その矛先が時に選手に向かったりするじゃないですか。

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 今、SNSを使えば、匿名で何でも言える。なんか選手がストレスのはけ口になってるような気もします。選手たちは精神的にきついと思いますよ。スルーできる人ならいいけど、真正面から受け止めてしまう人もいるので。ぼくが五輪選手だったら、こんな雰囲気の中でやりたくないし、出たいとも思わない。せっかくの夢の舞台を、煙たがられながら出たくない。

 でも、もし中止になったら、今までの費やしてきた時間、なんだったんだろうと思うでしょうね。スポーツって芸術とかとは違って、競技寿命もある。引退せざるを得ない場合には、セカンドキャリアのことも考えなくてはいけない。五輪選手にもカウンセリングや社会的なケアが必要なのではないでしょうか。平和の祭典なのに、全然平和じゃなくなっている。

 

 とにかく、緊急事態宣言に関しては、何回おんなじことやってんだという、怒りでもない、奇妙な感じというか。あんまり大きな声で言うと非国民みたいに思われるかもしれませんが、「なんでぼくの試合は延期になったのに、東京ドームは客入れて野球やってんの」と思ったりします。

 他にも、舞台を奪われたり、収入にストップがかかってしまったアスリートがたくさんいます。ぼくたちは氷山の一角に過ぎません。国や政府は緊急事態宣言を出すなら出すで、ぼくたちプロのアスリート、スポーツ関係者にも、しっかりわかりやすい補償を出すべきです。補償金がないからみんな困っているんです。アスリートやパフォーマーといった細かい業種まで、補償やケアがしっかり行き届くシステムを打ち出す温かさが、国にはもっと必要なのではないでしょうか。

直前の試合中止はアスリートを壊す…32歳プロボクサーが“タイトルマッチ直前”に明かした本音

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