文春オンライン
直前の試合中止はアスリートを壊す…32歳プロボクサーが“タイトルマッチ直前”に明かした本音

直前の試合中止はアスリートを壊す…32歳プロボクサーが“タイトルマッチ直前”に明かした本音

藤井貴博さんが語る「緊急事態宣言とアスリート」

2021/06/16
note

チケットの払い戻しは死活問題

 急な緊急事態宣言で困るのは、メンタル面だけではありません。実はボクシングの試合って、興行主がチケットを販売するだけでなく、ボクサー自身がチケットを引き受けて、知人や支援者に買ってもらっている分があるんです。昨年予定していた試合では、100枚弱のチケットを買ってもらいました。地元の商店街のみなさんも応援してくれているので、それくらいの枚数になるんです。1万円席や2万円席もあります。それを、ボクサー自らの手で払い戻さなくてはならない。

 今回のタイトルマッチも、225枚ものチケットを買っていただく予定でした。今回は6月21日に日程がずれたので、そのまま持っていてくれている人もいます。でも、土曜日だった試合が月曜日になったので、来られなくなった方々もいる。なので、やっぱり、いくらかは払い戻しをしないといけない。その作業がすごく大変で。正直、「なんで選手がやんなきゃなんないの」って思いますよね。

 それにチケット収入って、ボクサーにとっては、とても大きいんです。何割かは自分の取り分になるので、100枚、200枚と売れば、何十万円の収入になる。試合のずいぶん前から買ってもらっていますから、当然、生活費として使ってしまいます。なのに、いきなり緊急事態宣言が出たから中止。もらった給料を「全額返せ」と言われるようなものです。入るはずだったファイトマネーだって、もらえなくなる。僕らレベルの選手だと数十万円程度ですが、それでも無くなるのは痛い。

ADVERTISEMENT

 そもそも格闘家は、練習と減量に集中しないといけないので、試合が決まると仕事を休む必要がある。ぼくはフィットネスクラブに勤めていて、個人でトレーナーをしているお客さんもいるんですが、試合1ヵ月前くらいからは仕事を減らし、2週間前には完全に休ませてもらっています。なので、リアルな話、その間は収入がなくなる。

練習中のマスクが“逆効果”になることも……

 プロモーターも大変です、ソーシャルディスタンスを維持するために収容人数が会場の定員の半分に制限されているので、チケット収入が半減する。それに、興行前日の計量時に、全選手、審判員、セコンドに対してPCR検査をするのですが、その費用もプロモーターが負担しないといけない。

 さらに、選手の計量と健診を行った後は選手をホテル隔離するのですが、翌日の試合会場入りまでの2泊分もプロモーターが負担しなくてはならない。試合会場の入り口に消毒液を置き、試合会場を消毒する要員も10人ほど必要です。ですから、収入が半減する一方で、感染対策の費用がかさむので、運営が大変だと話していました。

 ボクシングの練習にしても、いろんな制約があります。ジムに入るときは体温測定とアルコール消毒。血中酸素濃度も測ります。さらに、練習中は基本的にマスク。トレーナーもマスクの上に、フェイスガードまでしてパンチを受けるので大変です。ジムの一般会員の中には、練習中に倒れた人もいるみたいです。