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直前の試合中止はアスリートを壊す…32歳プロボクサーが“タイトルマッチ直前”に明かした本音

直前の試合中止はアスリートを壊す…32歳プロボクサーが“タイトルマッチ直前”に明かした本音

藤井貴博さんが語る「緊急事態宣言とアスリート」

2021/06/16
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1週間で8~10kg落とすボクサーも

 今、ぼくは普段から食事をコントロールしているので減量は必要ないんですが、それでも試合が近づくほど、精神がすり減っていきます。緊張とか恐怖とか。ケガで脳や眼に障害を負う人もいますし、死んでしまう人もいる。人間なんで、勝ち負けの不安もあります。簡単に言うと戦争行く前みたいな感じです。

 ですから、減量のある人は、もっと大変です。8~10kgを1ヵ月で落とす人もいれば、1週間で落とす人もいる。8kgだったら5kgは食事や運動で減らし、最後の3kgは半身浴をしたりして水抜き。今の時代、サウナスーツを着る人はいないと思うんですが、厚着をして何kmも走ったりもします。

 

 実はぼくも、若い頃は減量していました。新人王トーナメントに出てた23歳の頃、あるボクサーが1週間で5kgくらい落としていたのを見て、そのほうが筋肉量を落とさず、パフォーマンスが上がるのかなと思って、やってみたんです。計量終ったあとに、一気に7kgぐらいリバウンドさせるやり方なんですが、そしたら、摂食障害になっちゃった。

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 とにかく、考えられないくらい食べるんです。試合1週間前なのに、気づいたら駅から家までの間にあるコンビニに全部寄って、大袋2つ抱えて帰っていました。菓子パンだったり、ポテトチップスだったり。それを全部食べちゃって、トイレで口に指を突っ込んで、泣きながら吐いていました。それからは減量がきつかったです。試合のたびに7kgから10kgは減量しなくてはならない。

減量中に突然、試合延期が決まったら……

 格闘家独特の「弱みを見せてはならない」という心理があるせいか、あまり発信されていませんが、実は無理な減量がたたって摂食障害になる格闘家は結構いるはずなんです。摂食障害になると、食べてはいけない量を食べてしまったことで、死にたくなるくらいの罪悪感に襲われる。

 はっきりした理由はわかりませんが、ぼくは28歳くらいで完全に治りました。でも、それまでの間、うつ状態に陥っていて、ボクシングを2回くらい離れました。このままやってたら心身が壊れると思って。もともと山好きだったこともあって、長野の農家借りて、山籠もりして、テントをかついで、アルプスをずっとうろうろしてました。

 減量って、それくらい厳しいものなんです。それが10日前とかに試合延期になったら、再調整が大変ですよね。いきなり普通の食事に戻したら、リバウンドする可能性もある。今回の緊急事態宣言でも試合が延期になって、摂食障害やうつ病になっちゃった選手がいる。ある人は急な緊急事態宣言で仕事がなくなって、ジムに行けなくなった。それで体重が増えちゃって、まわりの人から「太った」とか、「その体重だとこの階級で試合させない」と言われて、メンタルの調子を崩してしまったそうです。