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直前の試合中止はアスリートを壊す…32歳プロボクサーが“タイトルマッチ直前”に明かした本音

直前の試合中止はアスリートを壊す…32歳プロボクサーが“タイトルマッチ直前”に明かした本音

藤井貴博さんが語る「緊急事態宣言とアスリート」

2021/06/16
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 飲食店ばかりが注目されるが、アスリートたちも緊急事態宣言の影響を受けている。一試合一試合に賭けるプロボクサーもそうだ。試合中止や延期によって心身ともにダメージを受けるだけでなく、チケットの払い戻しなど経済的にも損害を被っているという。

 2021年6月21日に日本とアジア・パシフィックのベルト2つをかけたタイトルマッチを後楽園ホールで行うプロボクサー藤井貴博(32)が、試合前にその心境を激白した。

プロボクサー・藤井貴博(ふじい・たかひろ):
1989年5月14日生まれ。日本体育大学卒。祖母が人間国宝で両親も東京芸大卒の邦楽家という家柄に生まれる。高校から格闘技を始め、大学在学中にプロデビュー。現在、ボクシング日本スーパーフライ級8位/WBOアジア・パシフィックスーパーフライ級5位。

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 本来なら、去年(2020年)3月に試合をする予定だったんです。当時、日本スーパーフライ級7位の僕にとってタイトルマッチの前哨戦だったので、絶対に落とせない試合でした。勝てばタイトルマッチへ繋がりますが、負ければランキングを落として、いろんなものを失っていたと思います。

 相手の選手も元日本ランカーなんですが、36歳だったので、僕の試合に負けたら強制的に引退という立場でした。逆に勝ってランキングに入れば定年を延長できる。ボクシングの世界で生き残るために、僕を殺しにいく勢いだったと思います。

プロボクサー・藤井貴博さん

 そもそも、ボクシングの試合は消耗が激しいので、がんばっても年に3回くらいしかできません。ボクサーにとって一試合一試合は、とても重いんです。それが、急な緊急事態宣言で中止になった。虚無感が大きかったですね。何を食べても美味しくなかった。それでも1回目のときは、まぁしょうがないかなと思っていました。ごちゃごちゃ言っても埒が明かないので、YouTubeで発信を始めようと、前向きにとらえていました。

突然延期されたタイトルマッチ

 ところが、この5月22日に挑戦が決まっていたタイトルマッチまで延期になった。墨田区総合体育館で試合する予定だったんですが、4月25日に緊急事態宣言が出て、都の施設が使えなくなったんです。今回は、日本とアジア・パシフィックのタイトルマッチです。勝てば一気にベルトを2つ獲れますし、世界ランキングに入る可能性があります。しかし、負けたら引退に追い込まれるかもしれない。そんな大事な試合が、突然10日前くらいに延期となったんです。

 感染が拡大している状況では、仕方ないのかもしれません。しかし、もうコロナ禍が始まって2年目です。確かに当初はわからないことばかりでしたが、これがどんなウイルスなのか、徐々に見えてきたこともあるじゃないですか。「なんかおかしいな」と思い始めて。「早くコロナ終わんないかな」とSNSでつぶやいてるだけでは何も変わらないので、こうしてお話をして、考えを発信したいと思ったんです。

 ぼくたちボクサーは、試合が決まると2~3ヵ月前から、本番に向けた練習プログラムに入ります。まずは筋力をつけたり、長い距離を走ったりして、スタミナをつけていく。試合1ヵ月前くらいになると、スパーリングとかスキル練習とか、実戦練習の量が多くなる。それから、減量する必要のあるボクサーは、1ヵ月前から減量を始めます。