2017年の総選挙では、民進党が分裂し、希望の党と立憲民主党が誕生したことで、これまで保守とリベラルの価値観が混在していた野党第一党の迷いがなくなり、すっきりした争点の構造になった。この変化は宇宙政策にも大きく影響するものと思われる。
2008年の「宇宙基本法」が可能にした安全保障上の宇宙利用
1960年代から続いてきた日本の宇宙開発は、長らくJAXA(とその前身のNASDA)を中心に技術開発を目的とし、宇宙先進国に追いつき追い越すことを目指してきた。しかし、日本の宇宙開発は先進国の仲間入りをする水準に到達したにも関わらず、産業としては国際的な競争力を持たず、また1969年の「宇宙の平和利用決議」によって、安全保障目的の宇宙利用が制限されるという状況が続いていた。
こうした状況を打破するべく、2008年に自民党、公明党、民主党(当時)の三党合意に基づく議員立法で「宇宙基本法」が成立し、憲法が認める自衛権の範囲の中での安全保障上の宇宙利用が可能となった。また、宇宙産業の国際競争力をつけるために内閣府の宇宙開発戦略推進事務局に「宇宙システム海外展開タスクフォース」を設置し、グローバル市場に向けたインフラ輸出と同様、宇宙システムも輸出する方向性をもった政策が展開されるようになった。
こうした流れは、2009年から始まる民主党政権でも変わっていないどころか、民主党政権で加速した側面もある。先日4号機が打ち上げられ、いよいよシステムの完成に到達した準天頂衛星「みちびき」の初号機は2010年に打ち上げられたが、その時の担当は国土交通大臣であり、宇宙開発担当大臣を兼務していた前原誠司・民進党代表である。また、希望の党の創設メンバーとなった細野豪志氏や無所属で出馬している野田佳彦元首相は宇宙基本法導入に当たって民主党(当時)の宇宙基本法検討PT(プロジェクトチーム)に属しており、積極的に法案成立に尽力した。この立場は希望の党に移った多くの元民主党・民進党系の政治家に共通するものと思われることから、希望の党が明示的に宇宙政策に関する立場を示していなくても、宇宙基本法成立以降の宇宙政策の継続が基調となると思われる。
また、希望の党の代表を務める小池百合子氏は、かつて自民党政権で防衛大臣を経験し、また自民党政務調査会の宇宙・海洋開発特別委員会のメンバーでもあり、しばしば北朝鮮の宇宙開発の問題なども取り上げて議論していたことから、安全保障目的の宇宙利用に対しては積極的な立場であることも想定される。
他方、2008年の宇宙基本法の成立に反対したのは共産党、社民党である。これらの党は、宇宙開発は「平和の目的に限り」とする1969年の国会決議の立場を継続し、防衛省・自衛隊が宇宙開発に関与することを否定するのみならず、防衛省や自衛隊が宇宙システムを利用することにも反対していた。今回の選挙での選挙公約に宇宙政策に関する記述は存在していないが、これまでの政策を転換したという話は聞かないし、しばしば国会審議でミサイル防衛の問題などに関連して宇宙利用に対する政府(自民党・公明党)の方針を批判していたことから見ても、今後も宇宙基本法が成立する前の「宇宙の平和利用決議」に戻し、日本の宇宙開発は科学技術政策として、人類の夢と未来に貢献するべきものとして位置づけているものとみられる。