「小林さんはト書きを本当に嫌そうに書いてる」
―― 脚本が採用された後、しばらく会社員も続けられていたそうですね。
小林 そうですね、デビュー後も会社員で。まあ、若かったですし、そんなに体力的にしんどいという感じはなかったですね。たまたま外資系の会社で、フレックス制度がちょうど導入され始めた時だったので、結構自由が利いたんです。それで両立できていました。
―― 脚本家の方がデビューした時の感動ってどういうものなんでしょう。
小林 印刷台本を手にした時に「おぉ」って思いましたね。撮影所を見に行った時も「おぉ」って思って。で、画面に自分の名前がピンで出てくるので、それを見てまた「おぉ」って(笑)。
―― 撮影所に行くものなんですね。
小林 いや、行かなくていいんですけど、初めてだったので見学したかったんです。東映撮影所のみなさんが、私の書いた台本をポケットに突っ込んで仕事をしているのを見て「これはすごいな」と思ったのが忘れられません。
―― プロデューサーの白倉(伸一郎)さんが、「小林さんはト書きを本当に嫌そうに書いてる」って言ってましたね(笑)。
小林 結構ちゃんと書いてるつもりなんですけど、文章が下手なんでそう見えるのかもしれないですね(苦笑)。
―― 特撮ドラマの場合、脚本家はキャラクター設定にどこまでかかわるんですか?
小林 それはその時のプロデューサーさんのやり方によりますね。東映特撮でやっている時は大体設定は詰めていきます。
おもちゃ、2回のヤマ 他のドラマ脚本の作業ではないこと
―― ニチアサ(日曜朝)の特撮ものって僕は「テレビのドラマの究極のかたち」だと思うんですよね。変身があって、アクションシーンがあって、ロボット戦があるっていうフォーマットがちゃんと決まっていて。しかも、おもちゃの広告としても機能するという。テレビならではのかたちという気がしています。
小林 独特ではあるかなと思いますね。おもちゃとして「商品」になる道具=武器デザインは先に決まっているので、この道具を使ってどういうふうに場面を作るかを詰めていくのは、他のドラマ脚本の作業ではないことです。
―― 不自由さみたいなものは感じないですか?
小林 おもちゃの面ではちょっと感じますけどね。あと、1回クライマックスがあった後、ロボット戦のために、もう1回ヤマ場を作らなきゃいけない部分は戦隊もの独特の大変さですね。
―― 小林さんの作品はそこにちゃんと理由づけをしている感じがします。
小林 ロボ戦も面白くしたいなっていう思いは常にあります。というのは、私はいつもロボ戦になると「あとは巨大化して倒すだけだね」って分かるから、チャンネル変えてたんです。で、エピローグになりそうな時間にまたチャンネルを合わせるという(笑)。なので、見てもらう方には、ロボ戦も見てほしいとがんばりました。
敵側に一切カタカナ語をしゃべらせなかった
―― 特撮は、基本的にはいわゆる子ども向けじゃないですか。その中でも、大人の視聴者を意識されたりするんですか?
小林 特にはないですね。それよりは、幼い子だけでなく、小学校低学年や中学年の子とかにも見てもらえたらいいなとは思いますね。大人に合わせたストーリーとか伏線を考える、ということはしていないです。
―― 子どもは得てして敵キャラに共感を持たない気がするんですが、小林さんの作品は特に敵側のキャラクターも立ってますよね。
小林 敵側はおもちゃ縛りもないので、本当に自由なんです。ドラマ作りもある程度は自由。だから、敵同士のやりとりは大好きな時代劇チックな「越後屋、お主もワルよのぉ」的なノリになっちゃうんですけど、その点『シンケンジャー』は思いっきり時代劇に振って書きました。私の書いた回では、敵側に一切カタカナ語をしゃべらせなかったくらいです。
―― へえ! 徹底してたんですね。タイトルも歌舞伎っぽかったですよね。「伊達姿五侍(だてすがたごさむらい)」「極付粋合体(きわめつきいきながったい)」……。
小林 そこは時代劇好きのプロデューサーさんがこだわってくださって。セリフのことも私はあえて自分のこだわりについては言わなかったんですけど、「靖子さん、カタカナ語しゃべらせませんよね」って気づいてくれて嬉しかった。