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敵キャラはシナリオで性格をデザインできる

――敵側のキャラクターデザインは脚本の段階ではすでに出来上がっているんですか?

小林 いや、シナリオで「こういう敵になります、こういうキャラです」って決まってからデザインされます。逆にヒーローは先にデザインありきなんですけどね。

 

――僕は正しい群像劇というか、キャラを立てることで生まれる関係性で話が進んでいく物語を小林作品に感じるんですが、小林さんはご自身は「群像劇を書いているつもりはない」とよく語られていますよね。

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小林 そうですね、群像劇というのは、ある1つのシチュエーション、例えば学校とか同じ教室の中に人がたくさんいて、その中で動く関係性を描くものだと思うんです。でも私の場合は時と場所、そして登場人物たちがバラバラに動くので、全然群像になってないんですよね。個々の集まりみたいな感じで。だから私は自分の作品を群像劇とは思えないんですよ。

―― 登場人物のキャラを立たせるにはどういうことを意識されてるんですか? 

小林 自分で明文化できるような法則っていうのは特になくて、こういう人かな、どういうことを考えてるのかなって、自分でも手探りでやっていく感じですね。戦隊ならレギュラーの5人の並びで、一人一人立ってないといけないので、対比で考えたり……。

―― ほとんどのキャストが新人なので最初は違うと思うんですけど、途中からは当て書きみたいな感じになっていくんですか?

小林 1年間放送されるものだとだんだんフィードバックできることもあるので、そういう面もありますね。

空気が変わったのは『仮面ライダークウガ』のあたり

―― 特撮ヒーローものは、もはや若手の登竜門的な枠として注目されていますが、小林さんの作品からは、北川景子さん、佐藤健さん、松坂桃李さんと、本当の意味で大成している人が多い印象があります。

小林 たまたまだと思いますよ。昔に比べると大手事務所の俳優が出演するようになって、ブレイクしやすくなったという面はあるかもしれませんが。

佐藤健 ©山元茂樹/文藝春秋

―― 小林さんから見て、どの辺が転換期だった、みたいなのってありますか?

小林 やっぱり『仮面ライダークウガ』のあたりですかね、オダギリジョーくんがブレイクした。で、「奥さまに大人気」みたいに、ワイドショーで取り上げられるようになって、だんだん若手俳優の登竜門と言われるようになっていったと思います。

―― ご自身の脚本を演じられた佐藤健さんはどんな印象でしたか?

小林 佐藤くんは最初からすごかったですね。まだ10代でしたけど、純粋に芝居を楽しむ人というか。普通あのぐらいの年齢だとかっこ悪いシーンでも、少しかっこよさげにやりたがるところを、思いきった演技でされてましたね。表面的なお芝居じゃなくて、このキャラはこういう内面だからこういうお芝居をするっていう論理的な感じもしました。

―― 『シンケンジャー』の松坂桃李さんは、正直僕は初回を見て、最初、ヤバいなと思ったんですよ。でも、どんどんうまくなっていって。

小林 戦隊ものだったら絶対にレッドにならないタイプのキャラで、「殿」という設定上、最初はセリフも少ない役だったわけです。でも松坂くんの雰囲気はこのキャラにハマってましたね。だんだんお芝居もハマるようになっていったのが印象的でした。

松坂桃李 ©深野未季/文藝春秋

―― 北川景子さんも出演された『セーラームーン』チームは今でもそれぞれの誕生日に集まったり、仲がいいそうですね。

小林 仲いいですけど、当時は今ほど仲良かったわけではないです。普通(笑)。でも大人になってから、1年一緒に何かをやった仲間は貴重だなって思いますよね。親とかよりも全然ずっと一緒にいるし、戦隊なんかは常に5人一束で動くので、5人の中ではいろいろ毎年、何かはありますよね。

―― 特撮ものに出演していたことを、昔は「黒歴史」と言われることもありましたけど、最近はみなさん、特撮時代の思い入れを語ることが多いですよね。

小林 若い頃に1年かけてやった作品だから、当然みんな思い入れはあると思うんですよ。昔は、それをしゃべる場がなかったからヘンに「黒歴史」扱いされたんじゃないですか。今は思い入れを語らせてもらえる場があるから、「若手登竜門」というふうに言われるようになった。それだけのことだと思うんです。

◆小林さんが最近手がけた『仮面ライダーアマゾンズ』。特撮における動画配信とテレビ放映の大きな違いとは? #3でじっくりとお伺いします。
#3 「変身しないものは書けない」脚本家・小林靖子が語る特撮と時代劇の未来
http://bunshun.jp/articles/-/4624

#1 特撮とアニメの大脚本家 小林靖子が語る「杉良と藤田まこと」への愛
http://bunshun.jp/articles/-/4622

写真=鈴木七絵/文藝春秋

こばやし・やすこ/1965年東京生まれ。93年『特捜ロボ ジャンパーソン』第40話でデビューを飾る。『仮面ライダー龍騎』『美少女戦士セーラームーン』『烈車戦隊トッキュウジャー』『侍戦隊シンケンジャー』などの東映作品のほか、アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』『進撃の巨人』、Amazon動画配信『仮面ライダーアマゾンズ』など多くの脚本を手がけている。