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「国家も古くなって機能しないところは作り変えないと」 ブレイディみかこが語る、日本の政治が迷走する理由

ブレイディみかこさんインタビュー#2

source : ライフスタイル出版

genre : ニュース, 社会, 読書, 国際, ライフスタイル, 政治

note

 自分と違う立場の、自分が知らない世界に住む人々の状況を想像する能力がエンパシーです。エンパシーの足りない政治家が多すぎると、「えっ、庶民がこんなにお金に困って明日への不安を抱えているときにマスク配るんですか?」みたいな、やることなすこと明後日の方向を向いた政策ばかり出てくる。彼らにはシュールなほどにエンパシーがない。

――本当にその通りだと思います。

亡霊の最たるものは「日本的空気」

ブレイディ いま、自助の精神、負債道徳、ジェンダーロール……さまざまな「亡霊」が日本を覆っています。「わたしがわたし自身を生きる」というシンプルなことがこれほど難しい社会もあまりない。その亡霊の最たるものは「日本的空気」かもしれません。空気という実体のないものに縛られて、言いたいこともあまり言えない、とくに政治的発言を自粛することが処世術になってしまっている。緑色のブランケットを敷いて自由に話し合えない環境では、民主主義も育ちようがない。

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 空気に身を任せるばかりでは、なんの解決策も見つかりません。新陳代謝が行われず機能不全を起こしている細胞は、一度壊して、新しく入れ替えていく勇気を持つこと。

©️Shu Tomioka

「他者の靴を履く」エンパシーを働かせることは、ちょっぴり疲れることかもしれないけれど、自分を自由にしてくれます。

 他者に言いたいことを言わせるというのは自分も言いたいことを言うため。「利他」と「利己」は矛盾する概念ではなく、実はつながっているし、混ざり合っている。

 とくにいろいろなことが混乱しているカオスな時代には、生き延びるために互いに助け合わないといけないから、利他的に振る舞うことが実は利己的にもなる。それは、利他も利己も結局は、「利人間」の行為だからです。システムや国家や企業のための利ではなく、生身の人間を利するための振る舞い――そんな原初の「助け合う本能」の輝きこそがアナーキック・エンパシーの核心であり、社会の様々な「亡霊」から人間を解放する道筋だと思います。

他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ

ブレイディ みかこ

文藝春秋

2021年6月25日 発売

ブレイディみかこ 1965年福岡県福岡市生まれ。96年から英国ブライトン在住。ライター、コラムニスト。2017年、『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で新潮ドキュメント賞、19年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でYahoo!ニュース|本屋大賞2019年ノンフィクション本大賞、毎日出版文化賞特別賞などを受賞。他の著書に『労働者階級の反乱』『女たちのテロル』『ワイルドサイドをほっつき歩け』『ブロークン・ブリテンに聞け』などがある。

INFORMATION

オンライン対談イベント

ブレイディみかこ×塩谷舞 7月2日(金))20時~
「『ここじゃない世界』について考える」
https://peatix.com/event/1943975

ブレイディみかこ×藤原辰史 7月13日(火)19時30分~
「パンデミックを生き抜くためのエンパシー」 
https://peatix.com/event/1956363

「国家も古くなって機能しないところは作り変えないと」 ブレイディみかこが語る、日本の政治が迷走する理由

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