ワクチン接種も大きく遅れをとっている日本
――日本は国家の中枢の新陳代謝が全く進んでいません。
ブレイディ 日本のオリンピック組織委員会を取り仕切っていた森喜朗さんが女性蔑視的な発言で辞任したとき、発言以上に驚いたのは森さんの年齢でした。日本で女性参政権が認められる前に生まれた世代でいらしたのかと。
イギリスはメイ前首相を除けば、1990年代から首相はずっと40~50代だし、政府の主要な役職についていて現場を担っているのもその年代の政治家です。その点では、前労働党党首ジェレミー・コービンは70歳だったから、先の選挙で年齢的に無理と言われた側面もあったんですよね。
だから、日本は深刻に政界の動的平衡がうまくいってないことに目を向ける必要があるのではと思います。国の中心部の細胞を作り変えていない。いま日本の政治はどこまで底が抜けるのかと思うぐらいいろいろなことが破綻していて、新型コロナのワクチン接種ひとつとっても先進諸国と比べて大きく遅れをとっています。
かつて80年代には、イギリスでよく「Japanese efficiency」という言葉が使われていました。ジャパンという国はすごく有能な国だ、と。だから昨今のコロナ対策の状況を話すと「昔のJapanese efficiencyはどこに行ったんだ」と周りから言われるんですよね。
ITができるだけではオードリー・タンにはなれない
――ワクチンの接種予約開始時、電話回線のパンクやシステム障害が相次いだのは、暗澹たる気持ちになりました。
ブレイディ そういうとき表面だけ見て、やっぱり日本はITがダメだから効率が悪くて、生産性も上がらない、オードリー・タンみたいな人材が必要だ! という話になりがちです。教育にもITのカリキュラムを取り入れよう、と。でもオードリー・タンは一朝一夕でできた人ではなく、オルタナティブ教育の学校を始めた母がいて、自由に考え、エンパシーを伸ばす育てられ方をしたからこそ、国民に寄り添った優れた対応ができたわけです。彼は、自分のことを「保守的なアナキスト」と呼んでいますが、型に囚われない発想をする人です。ただ、ITができるだけではオードリーにはなれない。
今、政治家にこそエンパシーが必要だと強く思います。たとえばイギリスのイートン・カレッジは王族とか議員の子とかが行く超エリート校ですが、エンパシー教育が積極的に取り入れられています。イギリスはEU離脱問題の少し前から、エリート層と労働者階級の対立というか、格差拡大で暴動が起きるのではないかというような一触即発の雰囲気があったので、エリート層の側にやはりエンパシーを学ばないとこれからはまずいのでは、という危機感もあるようです。