2013年に無形文化遺産に登録された「和食」は、いまも海外での人気が高まり続けている。その証拠に、2006年時点で約2.4万店だった海外にある日本食レストランは、2019年時点で約15.6万店まで増加しているほどだ(食料産業局調査)。
“中東きっての有名日本人” 鷹鳥屋明氏によると、アラブでも日本食は人気で、寿司やラーメンはすでにある程度市民権を得ていると語る。しかし、その陰で流行しているその他の食品もあり……。ここでは同氏の著書『私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか?』(星海社新書)の一部を抜粋。アラブにおける日本の食文化ブームのリアルを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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アラブで大人気の日本風パン屋
実はいま、アラブでは日本の食文化がちょっとしたブームになっています。
そのなかですでにある程度市民権を得ている寿司やラーメンについて取り上げるのではなく、ここで取り上げたいのは、本格的な日本式のパンです。いま、ドバイを中心に10店舗以上展開している「YAMANOTE ATELIER(以下「YAMANOTE」)」というパン屋は人気が高く、日本式パンの知名度が急上昇しています。人気メニューはチーズクリームデニッシュ、キャラクターをデザインした惣菜パンや焼きそばパンなどです。ちなみに焼きそばパンは「YAKISOBA PAN」というそのままの名前で販売されている。この商品、麺とパンという“炭水化物×炭水化物”という構造はハイカロリー大好きなアラブ人にも人気。焼きそばのソースの甘みには中東でよく収穫されるナツメヤシ(デーツ)が使われています。そのため中東の方々の舌に馴染みやすいという要因もあるかもしれません。また、これはヒットの直接的な原因ではないと思いますが、中東の人気アニメである『伊賀野カバ丸』の主人公、カバ丸の好物が焼きそばということもあり、現地の消費者に受け入れられる下地が整っていたのかもしれません。
この日本式パンですが1個200~450円、と価格設定としては同じ値段を出せばケバブを食べられる現地の物価から考えるとかなり割高かもしれません。にもかかわらず、人気メニューとして売れているわけですから、それだけ「日本のパンだから買う」という消費者が多いということです。日本でも外資のパン屋さんは少し高めの値段で売られているように、アラブにおける日本式パンも同じような立ち位置なのでしょう。遠くサウジアラビアからわざわざ美味しい「YAMANOTE」の食パンをお土産に買いに来るケースもあります。「YAMANOTE」は中東に展開した日本式の飲食店のなかで成功した事例と言えます。