“まゆ太郎”が大阪府の天満で起きた殺人事件の被害者かもしれない——。

 第一報を耳にした6月14日の正午過ぎ、当たり前だがすぐには信じられなかった。彼女は人の恨みを買うような人間ではなく、礼儀正しく、いつも明るく天真爛漫で、誰からも愛される女性だった。

 次第に殺害現場が“まゆ太郎”が今年1月にオープンしたばかりのカラオケパブ「ごまちゃん」だと確定し、夕刻に迫る時間帯に入って被害者の名が「稲田真優子さん(25)」と報じられた。

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亡くなった稲田真優子さん 友人提供

 苗字の記憶は怪しかったが、源氏名が「まゆ」である彼女の本名が真優子であること、25歳という年齢は聞いていたとおりだった。

「まゆ太郎と呼んでください」

 友人が殺人事件の被害者となる経験など当然ない。全身10箇所以上も刺され、防御創や息絶えた状況がイラストとなって紹介される。そうした記事やニュースを見てしまうと、彼女が滅多刺しに遭い、苦しむ姿がリアルな映像として浮かぶ。

亡くなった稲田真優子さんと逮捕された宮本浩志容疑者 友人提供

 彼女とのラインを辿っていくと、初めてのやりとりは2019年の3月だったから、付き合いは約2年半になる。大阪出張が多く、天満のホテルを定宿としている私は、仕事が終わって夕食をとったあと、彼女が昨年7月まで働いていたカラオケバー「ラブリッシュ」にたびたび足を運び、編集者やライター仲間とカラオケに興じた。文春オンラインの別記事では彼女は「天満の田中美保」と呼ばれていたようだが、私と知人の間では「天満のホマキ(堀北真希)」と呼んでいた。

 私にとっては、出張中にお酒を酌み交わす大阪の友人のひとりだった。もちろん、傍目には20歳以上も年の離れた中年が若い女の子に入れあげているように映ったかも知れないし、彼女にしてもただの常連客のひとりぐらいにしか思っていなかったかもしれない。

「ラブリッシュ」で初めて会った日、彼女は「まゆ太郎と呼んでください」と自己紹介してきた。人に会う仕事をしているのに人見知りだという共通点で盛り上がった時には、「実は私もコミュ障なんですよ」と笑っていた。こちらのちょっとした冗談を真顔で受け止め信じ、人を疑うことがないような純朴さがあった。

「ごまちゃん」で接客する稲田さん(左) 本人インスタグラムより

 高校を中退してアルバイトをしながら、高等学校卒業程度認定試験を受け、当時は通信制の大学で心理学を学んでいると言っていた。

 まゆ太郎はいわゆる“水商売っぽさ”を感じさせない女性だった。来店を請う営業メールは来たことがないし、一緒に食事に行ったこともあるがその後に同伴出勤を強制されたことはない。そうした適度な距離感が心地よかった。東京で大きな地震があると、「大丈夫ですか」と心配の連絡をくれ、コロナ禍にある昨今も「体調はお変わりないですか」とたびたび、連絡を取っていた。