最後に会ったのは5月22日
事件後、「しつこくつきまとわれている客がいて悩んでいる」と複数の関係者に相談していたことがニュースとなったが、私にはそれが信じられなかった。彼女が常連客の愚痴をこぼすようなことはこれまで一度もなかったからだ。よほど追い詰められていたのだろう。
最後に会ったのは、5月22日。その日の夕食の約束をしていたが「21時から面接があって、そのあと21時半ぐらいからでもいいですか」と連絡があった。緊急事態宣言中ということもあり、狭い店が多い天満の飲み屋街は混雑していてどこもかしこも完全なる密になりやすい。感染のリスクを考えて、夕食はやめて翌日のランチにしようと提案すると快く承諾してくれた。
ただ、その頃の「ごまちゃん」はノンアルコールだけの提供で、カラオケも稼働させていなかった。苦しい経営の助けに少しでもなればと、22日の15時の開店から15分過ぎた頃、ちょっとだけお店に顔を出した。すると、土曜日の真っ昼間というのにすでに先客がいた。
彼女が考案したというノンアルコールカクテルを注文したが、甘いものが苦手な彼女にしてはやけに甘かった。その日のまゆ太郎の表情は曇りがちで、以前会った時よりも少し細くなっていたのが気になった。結局、翌日の食事の約束も感染リスクを回避するためにキャンセルすることになった。
もしあの時食事をキャンセルしていなかったら、彼女の抱えた悩みをわずかでも解くことができたのだろうか。それが彼女の死後、私が最も悔いていることだ。ラインのやりとりを見返すと、今年に入ってからは私が大阪にいない時でも連絡がきていたことに気がついた。何かしらのシグナルだったかもしれない。
ワンピースの主題歌を、キーの外れた高い声で歌い続ける男
夢をかなえて店をオープンした矢先に、その店内で命を奪われてしまった。本当に無念だろう。
今回の事件の一報を受け、真っ先に頭に浮かんだのは「ラブリッシュ」時代に幾度も見かけた男だった。営業のスタートから店にやってきて、ワンピースなどアニメの主題歌や嵐の曲をキーの外れた高い声で歌い続けるのが耳障りだったから、よく覚えている。
その男こそ、6月18日に“まゆ太郎”こと稲田真優子さんを殺害した容疑で逮捕された宮本浩志容疑者だった。