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事件の前日、30分間マイクを離さなかった

 りほさんが話す。

「ヒロシさんは結婚していることを店で隠していませんでしたね。確か、娘さんがふたりいるはずです。会社から天満が近いので平日に来ることが多かったんですが、たまに土日にいらっしゃった時は『家族には天満で用事があると話して家を出て来た』と話していました」

 宮本容疑者が最後に「ラブリッシュ」を訪れたのはいつか。そう訊ねると、りほさんは衝撃の事実を口にした。

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「実は、事件の前日(6月10日)、ヒロシさんはラブリッシュにも来ていたんです」

 その日も、接客にあたったのはりほさんだった。

「オープンの19時にお店に来て、1時間ぴったりの20時に帰って行かれました。30分はいつもと変わらないような話をしていました。私が『最近は飲んでいたんですか?』と聞くと、『奥さんとワインを飲むよ』と。奥様がお酒が好きなことは以前から聞いていました。そして、残りの30分は『歌いたい』といって、ずっとカラオケのマイクを離しませんでしたね。当然『ごまちゃん』にも通っていたと思うんですけど、その日は定休日の木曜日で、しかも緊急事態宣言中の『ごまちゃん』はカラオケを中止していたから、ヒロシさんも歌いたかったんだと思います」

「ごまちゃん」が入っていた現場ビル Ⓒ文藝春秋

 退店後、お礼のやりとりを幾度か交わし、最後に宮本容疑者がスタンプを送ってきたのは翌11日の7時、つまりまゆさんが殺害された当日だったことになる。

目当ての女性と話せず激昂

 りほさんは時期は覚えていないと断ったうえで、まゆさんと宮本容疑者との間に小さな“トラブル”があったことを話してくれた。

「一度まゆさん目当てのお客様が5~6組集中したことがあって。特定のお客様ばかり接客するわけにはいかないので、なかなかヒロシさんにつけなかったんです。しびれを切らしたヒロシさんが『もうええわ!』と急に怒り出し、まだ時間が残っているのに会計を済ませて帰ってしまって……」

被害者の稲田真優子さん(右)に、カウンター越しに顔を寄せる宮本容疑者

 このエピソードを聞いて、私ははたと思い出した。私もこの日、ラブリッシュを訪れていたのだ。左側の席に座っていた男性客が、突然立ち上がって帰って行くのを目撃していた。ラブリッシュはガールズバーのような形態をとったカラオケバーで、必ずしもお目当ての女性が接客にあたってくれる店ではない。それなのに目当ての女性=まゆさんと話せないからと激昂して帰って行く。

 大人気ないな、と思ったものだ。こんなことは人気者ならよくあることだ。好意を寄せるのであれば、恥も外聞もなく、なぜわざわざ嫌われるような衝動的な行動に出るのか。ただ、私がラブリッシュに足を運んで間もない時期で、おそらく2年前ぐらいだったから、その男性客の顔を失念していた。宮本容疑者の存在が脳裏に焼き付いたのは、そのずっとあとであり、宮本容疑者が来店する頻度が増えていた時期に重なる。