1ページ目から読む
3/3ページ目

 6月19日に最終回を迎えたドラマ『コントが始まる』(日本テレビ系)でも、菅田将暉、神木隆之介、仲野太賀が演じたお笑いトリオ・マクベスのメンバーは同居をしていた。3人で暮らすことで、お笑いをはじめたばかりの頃の思い出、自分たちの関係性についてあらためて向き合い、解散後の人生へと踏み出していった。売れることができるのは一握りだけの厳しい芸人の世界。金がなくて未来が不透明だとしても、理解し合える仲間や居場所を実感できることはとても重要である。

見取り図・盛山晋太郎氏

 以前、筆者が見取り図をインタビューしたとき、盛山晋太郎が、霜降り明星・せいやと一緒に暮らしていた時期について「あいつは洗濯もできない、米すら炊けない。何もできないやつだった。全部、僕がやっていましたから」と振り返った。しかし、せいやは漫才だけは抜群におもしろかった。盛山は「何もできないやつが『M-1』で優勝した。芸人として一番かっこいいじゃないですか」と身近にいたライバルに刺激を受けたという。

日常のトラブルを“笑い”にできる一方で……

 また芸人同士で暮らすことで、日常のなかから笑い話を見つけることができるのも大きなメリットだ。たとえばサンドウィッチマンは同居時代、扉が壊れていたトイレに伊達が閉じ込められたことがあった。夏の暑い時期でトイレ内は40度くらいあったが、富澤はそれに気づかずに熟睡。伊達が助けを呼んでいたら、上の階の住人が事件と勘違いして騒ぎ出したため、結局6時間も黙っていた。そしてようやく起床した富澤がトイレの扉をあけたとき、ヘバりきっていた伊達の姿が……。大騒動に発展しかねない出来事だが、今となればコンビにとって「おいしい話」のひとつである。

ADVERTISEMENT

 ヨシモト∞ホールのYouTubeチャンネルで3月21日に配信された「【激怒】ZAZYは平穏な日常をぶっ潰したい。/ヨシモト∞ホール15周年記念 同居人&元同居人大集合SP後編」では、『R-1グランプリ2021』(関西テレビ)の準優勝者・ZAZYが、長時間配信時に同居芸人から熱々のコーンスープを顔にかけられたエピソードを披露。当時は大激怒したとのことだが、番組のなかではその話題できっちり笑いを誘っていた。

 一方で、もちろん苦悩が生じる場合もある。放送作家、小説家として活動するNSC大阪校13期生・桝本壮志は、チュートリアル・徳井義実、スピードワゴン・小沢一敬と一軒家を借りて、たまに「同居」をしているという。2020年には、自分だけ売れていない状況で共同生活を送る芸人の葛藤を描いた小説『三人』(文藝春秋)を発表。同作には、多忙な同居人たちの姿を想像し、自分の存在を無視するように旅行話が進んだりする状況に苛立ち、玄関に置いてあるキャッチャーミットを蹴飛ばす主人公の姿などが綴られている。また同居人から「実力があるのに、なにもしてない今のお前のほうがもったいないよ」「なんでお前は、変わろうとしないんだ?」と詰められ、「変わる人間なんてダサい」と意固地になる場面も。

ミルクボーイ・駒場孝氏

 2020年に東京進出したお笑いコンビ、トットの多田智佑も、かつて同居していたミルクボーイの駒場孝が『M-1』で優勝を飾った際、「おめでとうという気持ちもあるが、見終わったあとのテンションの下がり方も一番だった」と悔しさの方が優ったとコメントしていた。ルームシェア相手がブレイクすることは、喜ばしいことだけではなく、自分自身の現状に対してもどかしさも覚えるようだ。

ライフスタイルを明かすYouTube配信

 お笑い芸人によるYouTube配信も当たり前になり、そのなかでライフスタイルを明かすことも増えてきた。冒頭で紹介したオズワルド・伊藤俊介の相方である畠中悠は、6畳1Kの住まいで芸人3人暮らしをするための同居人探しオーディションをYouTubeで行っていたほどだ。

 また、「ルームシェア」という環境は、芸人たちの新しい一面を知ることができる。同居人によっていつもとは違った芸風が引き出される可能性がある。さらに、同居芸人の活躍が自分の活動に刺激を与えてくれることも。切磋琢磨できる環境に身を置くことで、芸人としての腕が磨かれていくかもしれない。そういった意味でもルームシェア芸人たちの動向から目が離せない。