「敬愛する総秘書(書記)同志のおやつれになった姿を見た時、人々は非常に胸を痛めた」

「皆の目は涙であふれている」

 朝鮮中央テレビが6月25日、インタビューした平壌市民たちの証言だ。市民たちは、北朝鮮メディアが22日に報じていた国務委員会演奏団の公演会を鑑賞する金正恩朝鮮労働党総書記の激やせぶりに驚き、悲憤慷慨したという話だ。

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2021年1月の党大会に出席した金正恩(「労働新聞」ホームページより)
2021年6月の党中央委員会総会での金正恩(「労働新聞」ホームページより)

 確かに最近、公式メディアが伝える正恩氏の顔は目に見えて小さくなっていた。韓国政府は140キロだった正恩氏の体重が最近、10キロ以上痩せたと分析していた。韓国の情報機関・国家情報院によれば、身長約170センチとされる正恩氏の体重は、権力を継承した2011年末は約80キロで、翌年8月に90キロに増えた。足を引きずる姿が確認された2014年には120キロに、2016年には130キロに達した。国情院は昨年11月の国会説明で、体重が140キロに達したと説明していた。体重の減少は10年ぶりのことになる。

「国民のために身を削って働く指導者」をアピール

 情報関係筋によれば、国情院は正恩氏の体重減について「国民に苦難の行軍を迫っている以上、率先して苦労している姿を示す必要があった」としている。「苦難の行軍」とは、100万人とも200万人とも言われる人々が餓死したとされる1990年代半ばの食糧危機を指す。正恩氏は4月、「各級党組織、全党の細胞書記がより厳しい『苦難の行軍』を行うことを決心した」と宣言。6月の党中央委員会でも「食糧事情が緊迫している」と語っていた。

 北朝鮮では「国民のために身を削って働く指導者」をアピールする習慣があった。正恩氏の父、金正日総書記の場合も国営メディアが「不眠不休で働いている」「食事は粗末な握り飯とスープだけ」などと盛んに宣伝した。もちろん、それはフィクションだ。2001年夏、列車でモスクワに向かう金正日総書記に、1カ月近くにわたって随行したロシアのプリコフスキー極東連邦管区大統領全権代表の証言によれば、金総書記は食事のたびに、フランスのボルドーやブルゴーニュのワインと15~20種類の料理を楽しんでいたという。