失われた命は戻らない
ワタナベ君の友人に対する教師たちの態度は、ひどいものだった。「いつでも退学させることができるんだぞ!」「こっちが言うことにハイと言うまでは帰さないぞ!」などの暴言のほか、物を投げつける、机を叩いて威嚇するといった拷問のような聞き取りが4時間に及び、ワタナベ君の友人は停学処分にされたという。
さらに耳を疑うことが起きる。ワタナベ君は「提出物の期限を守らなかった」として、不当に留年させられたのだ。学年が変われば、いじめの件はなかったことになるとでも学校側は考えたのだろうか。そのような学校側のやり方に対して、阿部氏が助言して、ワタナベ君の両親は第三者委員会に働きかけを行った。その結果、ワタナベ君に対する多くのいじめが認定されて、モニタリング委員会も開かれることになった。
しかしながら、サトウ君の失われた命は戻らないし、ワタナベ君の受けた心の傷は癒えることはない。学校の罪、ヤマモトの罪は重いと思われるが、一連の事件に対する調査はすでに終了し、ヤマモトはなんの罰も受けず、現在、誰もが知る大手企業に内定したという。
「サトウ君が亡くなった時点で、学校はきちんとした調査をすべきでした。そのことを怠ったから、ワタナベ君も被害に遭った。この学校は預かっている子供の命を、あまりにも軽視しています。とくに彼の留年に関与した教職員は、教壇に立つ資格はないと思います。このような事件を扱うたびに言いしれぬ徒労感と、もっと早く何か手を打てなかっただろうかという後悔に襲われるのです」(阿部氏)
(取材・構成:西谷格)