サトウ君の自殺後、学校は第三者委員会を設置。外部の取材には応じないよう、生徒たちには箝口令が敷かれた。自殺の調査が始まると、加害者としてやり玉にあがることを恐れたヤマモトは、こんな誹謗中傷を学校中で触れ回ったのだ。
〈サトウが死んだのは、ワタナベのせいだ〉
〈サトウを殺したのは、ワタナベだ〉
〈あいつは殺人鬼だ〉
〈キモイ、頭おかしい。恥さらし〉
加害者のオモテの顔にダマされる教師たち
この噂を聞いて、上級生が部屋まで見に来たり、面識がない生徒がとんでもない奴だと思い込むなど、ワタナベ君は学内でどんどん孤立していった。クラスメートもヤマモトに同調して、いじめのターゲットがワタナベ君に移った。
寮生活のため、部屋を無意味にノックされたり、無断で入られることもあった。消臭スプレーをかけられたり、私物を土足で踏みつけられることもあった。サトウ君と同じく、殴る蹴るの暴行が日常的に続いたのだ。
ヤマモトは「誕生日祝いに眉毛を剃ってやる。眉毛を剃ったら気持ちが変わる」などと言って、仲間たちと一緒にワタナベ君の眉毛を剃り落とした。ワタナベ君は片方の眉だけがなくなり、周囲に笑われたという。
「実家に里帰りした際、ワタナベ君は睡眠薬を大量に服用して自殺未遂しました。すでにサトウ君という自殺者が出ていたにもかかわらず、加害者を野放しにしたままの学校の対応はずさん過ぎると呆れます。しばらくして母親から相談を受けた私は、ワタナベ君本人と数少ない友人たちから聞き取りを行って、証拠を集めました」(阿部氏)
しかし、ワタナベ君の保護者と学校とのやりとりは、思うようには進まなかった。教師たちは自殺未遂したワタナベ君ではなく、加害者であるヤマモトの側に立ったのだ。
ヤマモトは教師ウケが非常に良く、ハキハキとした態度で返答も巧みだった。教師に見せるオモテの顔と、苛烈ないじめをするウラの顔が、完全に別人格。優等生であるヤマモトがいじめ加害者となるのは、教師たちにとっては“不都合な真実”だった。
「それから起きたことは、隠蔽に走ったといって過言ではない学校の対応でした。ヤマモトが、『ワタナベ君をいじめたのは俺じゃなくて、あいつだ』と言ったことを真に受け、ワタナベ君の友人がいじめの犯人扱いされました。ワタナベ君が、お土産のやり取りとしてジュースをあげたことが『たかり行為』だとされたのです」(阿部氏)