浮気調査や人探しといった本業のかたわら、子供たちの「いじめ調査」を続けているT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚氏。年間約500件もの相談を受け、いじめ事件の解決に奔走するうちに、いつしか「いじめ探偵」と呼ばれるようになった。阿部氏が手がけた事件の中から、とくに印象的な事例について話を聞いた(プライバシーの観点から仮名にして記事構成しています)。
阿部氏が原案・シナリオ協力をつとめる漫画『いじめ探偵』(漫画・榎屋克優/小学館)はWEB漫画サイト「やわらかスピリッツ」にて連載中で、単行本第1集が発売された。
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同居翌日、エロ本トラブルが引き金で自殺
事件が起きたのは数年前、学生寮を併設したある高校でのことだ。交通の便がよくないこともあり、低学年は原則として2人1部屋で寮生活を送る。入学当初は出席番号順で部屋割りされるが、しばらくすると友人同士での部屋割りになるという。
入学から1か月が過ぎた頃、高校1年のワタナベ君(仮名)は、サトウ君(仮名)と同室になることになった。サトウ君の相部屋の相手が見つからず、急きょ同室の相手が別室に行くことになったワタナベ君と、残り者同士のように同室になったのだ。
その時点で、サトウ君はすでにいじめのターゲットになっていた。加害者グループを仕切っていたのは、ヤマモト(仮名)というクラスのリーダー格の生徒だった。
サトウ君は、ヤマモトとその仲間から日常的に殴る蹴るといった暴行を受けていて、LINEで1日に400件近いスタンプを大量送信されたり、私物を隠されることもしょっちゅうだった。耐えかねたサトウ君は、隠れてリストカットもしていた。
「複数の生徒からサトウ君は、いじめ被害を受けていました。これは寮生活の宿命とも言えますが、一度ターゲットにされると、教室だけでなく寮内でもいじめは続きます。つまり24時間、逃げ場がなくなるわけです」(阿部氏)
ワタナベ君がサトウ君と同室になった翌日、ヤマモトたちは別のクラスメートの持ち物であるエロ本をサトウ君の棚に隠し入れて、その反応をからかおうと計画した。同室のワタナベ君は「黙っとけよ」と脅され、何も言うことができなかった。
自分の棚にあるエロ本に気づいたサトウ君は激怒して、窓からその本を投げ捨てた。しかしその結果、本の持ち主とサトウ君はトラブルになったのだ。
その一件にショックを受けたサトウ君が、夜になって姿を消してしまったので、心配に思ったワタナベ君はトイレなど様々な場所を探したのだが、見つけることができず、部屋に戻ったという。
「次の日の朝、サトウ君の遺体が発見されました。隣接する校舎まで行き、外階段4階の踊り場から手すりを乗り越えて、飛び降り自殺したのです。そこまで彼は追い詰められていた。本当にいたましい事件です。しかし、この事件が許しがたいのは、サトウ君のいじめ自殺だけで事件が終わらず、同一加害者が再びいじめを行ったことなのです」(阿部氏)