壁にぶつかってもがいているワカゾーもいいもんだ
両軍の先発投手が発表になった。今永昇太vs吉田輝星。去年10月の左肩手術から復帰したハマのエースと、ハムの次世代エースがマッチアップだ。ファイターズのスタメンはこうだった。1.松本剛(8)、2.谷口雄也(DH)、3.万波中正(9)、4.清宮幸太郎(3)、5.今川優馬(7)、6.平沼翔太(6)、7.田宮裕涼(2)、8.杉谷拳士(4)、9.難波侑平(5) 僕はずっと清宮の変化を見ている。「高校野球のスター」はやっと今季、2軍でとことん野球漬けの日々を過ごしている。大谷翔平みたいに天馬空を行く感じの選手もしびれるけれど、壁にぶつかってもがいているワカゾーもいいもんだ。僕は清宮は何かを見つけつつあると感じている。やり通す意思があるかどうかずっと見ている。
球場にはファイターズファンもちゃんといた。たぶん僕と同じ目線だ。万波が壁を超えるのを、平沼が壁を超えるのを、田宮や難波が壁を超えるのをずっと見守っている。そして吉田輝星が壁を超えるのを待っている。自分の推しがいつかその弱さを乗り越え、跳躍する日を信じている。オリンピック関係ない。ただただ野球に見入っているのだ。
今永昇太がマウンドに立ってるのを見て、ハラの底から感動した。カッコいいよ。絵になるよ。だけど、絵じゃないんだよね。立ち上がり、今永は苦労した。1番松本四球、2番谷口センター前ヒット、3番万波レフト前ヒットで無死満塁。今永ほどの投手が何とかしようともがいてるんだ。絵になんてならなくていいじゃん。現実のなかで戦ってるほうが美しいじゃん。4番清宮三振。5番今川2点タイムリー。
1回裏、吉田輝星も制球に苦しんだ。球が抜ける。四球の走者を2人出して、2死1、3塁のピンチをつくった。輝星は今季1軍ローテを狙っていたはずだ。まだ実力が足りない。プロらしい球はだいぶ増えてきたと思うのだ。必殺技がほしいなぁ。輝星には打者を圧倒してほしい。ピンチの場面でベイスターズ5番山下幸輝から三振を奪う。
今永は2イニング投げて大貫晋一に交代、まぁ、調整登板ってやつだろう。今永がどうか順調にいきますように。3回裏になると空はすっかり群青色だ。スタンドを風が抜けていく。見ると電光掲示板の横っちょに月が出ている。月と輝星。そして燃える星たちよ。
僕の考える「スポーツ」はここにある
4回裏、輝星はベイスターズの9番益子京右に2点タイムリーを食らう。スコアは2対2。球場のベイスターズファンは大拍手だ。生真面目に観戦マナーを守って拍手をする。あるいは無言で「推しタオル」をかざす。皆、チームを、この現場を守りたい。野球のある毎日を守りたい。プロ野球がなかったら抜け殻だよ。プロ野球がなかったらなんもやる気出ないよ。
この夜、いちばんの見どころは5回表、ベイスターズの3番手でエスコバーが出てきたところだった。エスコバー、昔、うちにいたんだよ。田宮杉谷難波、三者連続三球三振だ。球場がどよめいた。真夏の夜の夢。至近距離から見る左の154キロだ。
だけど、エスコバーすげぇ~、なんて言っててもしょうがないだろう。ファイターズはイースタン後半戦スタートの首位ロッテ3連戦を全敗、2.5差から5.5差に転落して追浜に来ていた。勝たなきゃダメなんよ。勝たなきゃ選手も育たんよ。
と思ってたら7回裏、ディレードスチールにまんまと引っ掛かって勝ち越され、その後1点ずつ加えて3対4でゲームセットだ。今川優馬4打数2安打3打点。清宮は鎌ケ谷でホームラン連発だったが、この日は4の0。負けた負けたぁ~。清宮は1回無死満塁、手探りの今永のストレートを仕留めること。頑張れよ。
密にならないよう観客の退場を待って、選手らの試合後のストレッチを眺めた。気が付くと月は高く昇っている。いい夜だったなぁと思うんだ。野球が本当に好きな人らと野球を見た。僕の考える「スポーツ」はここにある。この小さな現場にある。
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