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単なる陰謀論ではなかった…? 武漢ウイルス研究所「流出説」を再燃させた“匿名専門家集団”の正体

2021/07/21
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「武漢の海鮮市場では、さまざまな野生動物が扱われていても、コウモリは扱われていない。本当に海鮮市場が新型コロナの起源なのか?」「コウモリ由来のコロナウイルスの世界最大級の標本コレクションを持ち、世界で最もリスクの高い実験を行なってきた武漢ウイルス研究所がある武漢で最初のコロナ感染者が出現したのは、単なる偶然なのか?」「研究所から流出した可能性もあるのではないか?」――「これはごく自然な疑問だ」と考えたドマノフは、2020年春頃から、入手できるデータを徹底的に分析し始めた。

「調べれば調べるほど、重大な疑問が湧いてきた」

 同じ頃、スペインでは、コロナ感染拡大によるロックダウンで職を失った40歳の産業技術者フランシスコ・デ・アシス・デ・リベラが巣ごもり生活を余儀なくされていた。中国当局が新型コロナ関連論文の出版を制限していることをCNNで知ったリベラは、この記事をツイッターで共有し、在宅時間を利用して、新型コロナウイルスの起源についてネットで独自に調査を始めた。

「技術コンサルタントとして働いた長い経験があり、とくに数字に強い」と自負するリベラは、数千に及ぶウイルスのDNA配列、患者データ、武漢ウイルス研究所の研究員の出張記録や経路などについて、夥しい数のエクセルシートを作成した。「私にとっては巨大な数独のようなもの」というリベラの才能が、ドラスティックの調査データのインフラ設計において、威力を発揮するようになる。

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 またインドでは、コードネーム「@The Seeker268」で知られる建築・絵画・映画の専門家で、科学、国語、社会科学の教師でもあったインド人男性(30)が同様の疑問を抱いていた。「おしゃべり好きな夜型人間」で、「一度見たものは100%記憶できる」という鉄壁の記憶力の持ち主だ。サンスクリットを含めインドの言語だけでも4言語を自在に操る。「新型コロナウイルスの起源について、調べれば調べるほど、答えよりも多くの重大な疑問が湧いてきた。調べ続けなければいけないという使命感を感じた」という彼は、その卓越した情報収集・分析能力で、ドラスティックの調査に大きく貢献する。

「私は専門分野は持たないが、科学リテラシーは持っている」という@The Seeker268は、2020年4月末までは「自然発生説」を支持していたが、2020年5月頃、他のドラスティックのメンバーの多くと同様に、ロッサーナ・セグレト(ドラスティックのメンバー)らの記事を読んで、考えに変化が生じた。

2019年9月にPCR検査キットを入札していた

 そこでまず調べたのが、武漢の海鮮市場から最も至近距離にあった武漢疾病対策センター(CDC)研究所で、ホームページを読み漁り、「武漢CDCが研究所の場所を移動させようとしていたこと」「2トンものバイオ廃棄物を処分していたこと」「2019年12月4日付の武漢の『ヒートマップ』の地図が武漢の感染状況を示しているらしいこと」など、分かったことをツイッターのスレッドに次々にアップしていった。

「まだ謎が多い」と言いつつも、@The Seeker268は、「最初のクラスターは研究所に近い場所で起こったと考えられる」としている。さらに興味深いのは、「2019年9月に武漢CDCがPCR検査キットの入札をしていたこと」だ。コロナ以外の検査もできるPCR検査キットだが、2019年9月という微妙なタイミングは、「新型コロナの発生源」との関連を疑わせるに十分だ。「さらに深く調べよう」と@The Seeker268は決意を固める。