「新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所から流出した可能性は陰謀説ではなく、検証するに値する」――2021年5月17日、ハーバード、イェール、MIT(マサチューセッツ工科大学)、スタンフォード大学など、米国を代表する大学・研究所に所属する17人の科学者が、サイエンス誌に「流出説」の検証を呼びかける公開書簡を発表した。

「流出説」は、当初から一部で可能性が指摘されていたが、中国当局だけでなく、西側メディアによっても、そうそうに“陰謀論”として片付けられていた。

 ところが、その「流出説」に再び注目が集まっている。

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 米バイデン政権は、情報機関に対して「流出説」も含めた追加調査を指示し、英BBCや仏ルモンドなど西側メディアも「流出説」を排除しないようになったのだ。

有志のネット調査団「ドラスティック」

 “陰謀論”と一蹴されていた「流出説」を復活させた最大の功労者は、有志のネット調査団「ドラスティック」(DRASTIC, Decentralized Radical Autonomous Search Team Investigating COVID-19)だ。

 メンバーの一人、スペイン人の産業技術者リベラは、エル・パイス紙の取材に「新型コロナウイルスに関わる問題はウイルス学者が解決すべき問題だと捉えられがちだが、それは違う」と答えている。20名以上から成る匿名ネット調査団の最大の強みは、メンバーが多分野――ウイルス学、遺伝子学、微生物学、分子生物学、疫学、薬学、病理学、動物学、生物物理学、公衆衛生、情報生命科学、社会学、バイオセキュリティー、データ分析――の専門家によって構成されていることだ。

流出疑惑のある武漢ウイルス研究所

 ドラスティックの調査は、2020年7月、英「タイムズ」紙の長編特集「流出論と新型コロナの起源」で初めてマスメディアに取り上げられたが、その後も、主要メディアが後追いするような新発見を積み重ねている。

 ドラスティックの調査結果を受けて、「ネイチャー」は、2020年2月3日に配信した石正麗の論文(A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin)に対して、同年11月17日に「付録」をわざわざ挿入している。英BBCも、「新型コロナに酷似したコウモリ・コロナウイルスが採取された銅鉱山」の場所をドラスティックが特定したことを受けて、同地に調査団を派遣している。バイデン政権を「流出説の再検証」へと踏み切らせた冒頭の公開書簡もドラスティックの功績だ。

武漢でコロナ感染者が出現したのは偶然か?

「新型コロナウイルスは、コウモリから他の動物に感染が起こり、そこから武漢の海鮮市場でヒトに感染した」という「自然発生説・海鮮市場起源説」が信じられていた2020年5月、「研究所流出説が充分に検証されていないのではないか」という疑問がツイッターを通じて学者や「ネット探偵」の間に広がり始めた。

「データのなかに規則的なパターンを見つけるのが得意」で、ニュージーランド銀行にデータサイエンティストとして勤めるジャイルズ・ドマノフは、「流出説は陰謀論だ」という西側メディアの論調を決定づけた、科学者27名による「ランセット」の共同署名記事について、「証拠もなく非科学的だ」と疑問を感じていたという。