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普通の人を看守役と囚人役に分けると、看守はサディストに… 「スタンフォード監獄実験」の“ねつ造”を示す3つの根拠

『Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章』より#2

source : 翻訳出版部

genre : 社会, 国際, 読書, 歴史, 教育

note

無視された囚人役の証言

 さらにもうひとつ根拠となるのが、実験2日目にヒステリーを起こしたひとりの囚人の叫びだ。

「何だってんだ。ジーザス! はらわたが煮えくり返る。わからないか? おれは出たいんだ。ここは最悪だ。もう一晩も耐えられない。うんざりだ!」

 このセリフは、同実験を象徴するものとして、のちのち多くのドキュメンタリーに取り上げられることになる。

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 しかし、2017年にあるジャーナリストが、この囚人役に尋ねたところ「あれは全部芝居だった」と語ったのだ。この囚人役は実験後、ジンバルドに芝居だったと伝えたが、無視された。

解放されたくて叫んだセリフが……

 この囚人役は、のちに心理学の博士号を取るだけあり、「初日は囚人役を楽しんでいた」という。そもそも被験者に登録したのは、実験の最中に試験勉強をしようと思っていたからだった。しかし、監獄に入ると教科書を取り上げられたため、翌日止めることを決意した。

 ところがジンバルドは彼を解放しなかった。囚人たちは、身体的あるいは精神的な問題が見られた場合にのみ、解放されることになっていたからだ。

 彼は、はじめは腹痛を装ったが上手くいかず、作戦を変えて感情が制御できないふりをした。その結果が「何だってんだ。ジーザス!……もう一晩も耐えられない。うんざりだ!」という叫びとなる。そしてこの叫びは、スタンフォード監獄実験を象徴するセリフとして世界中に知られることになったのだ。

©️iStock.com

 以上が、同実験がねつ造であるという主な根拠である。

 そもそもスタンフォード監獄実験はあまりに非倫理的だったので、誰もあえて検証実験をしなかった。おかげでジンバルドは何十年ものあいだ、自説を吹聴できたのだ。