幕末動乱期の京都の治安維持を任務として結成された新選組。尊皇攘夷を掲げ、倒幕派の最右翼である長州藩とは不倶戴天の敵同士だ。
新選組が監察の山崎蒸らを町人に扮させて長州派志士たちの動向を探る一方、長州側でも新選組に間者(スパイ)を送り込み、情報を収集するなど、お互いに熾烈な情報戦を展開していた。
文久3年(1863年)、長州の間者として新選組に入隊した剣士がいた。京都浪人である深町新作が間者となったのには、将来を誓った小間物屋の娘の存在があった──。
折しも、水面下では勤皇派によるクーデター計画が密かに進行していた。風雲急を告げるなか、二つの組織の狭間で翻弄される深町。一方、独自の嗅覚で深町に疑念の目を向けていたのが沖田総司だった。深町と沖田の息詰まる心理戦の、驚くべき結末とは──。
司馬遼太郎原作『新選組血風録』のコミカライズ版から、擾乱の京を舞台に佐幕派と倒幕派の凄まじい情報戦を活写した「長州の間者」をご紹介する。
【マンガ】「長州の間者」第1話はこちらから
「町人か武士か」人生の岐路に立つ新作
京都浪人の深町新作は小間物屋の娘、おそのと深い仲になった。おそのは新作に、「町人になって店を継いでほしい」と頼むのだった。
新作には武士へのこだわりがあった。亡くなった父の遺言が「よい武士になれ」だった。死ぬ直前、父は自分が長州藩の出身であることを新作に明かしていた。
「小間物屋を継ぐ件は、考え直してくれまいか?」「私に浪人の妻になれと言うのですか?」
平行線が続く二人の仲を見かねたおそのの姉が、「長州様にご奉公しなはります?」と新作に相談を持ちかけた。
新作は、長州藩の吉田稔麿という男と会うことになる。稔麿は吉田松陰の弟で、勤皇派の大物だった。新作の身辺を調べ尽くしていた稔麿は、「新選組に間者として潜入してほしい」と切り出すのだった……。
幼い頃から剣技を学び、目録を得るほどの実力者である新作は、新選組の考試を突破し、隊員となる。しかし、沖田総司だけは新作を疑念の目で見ていた。「この男、わざと技量を軽く見せているのでは……」。実際、新作は白刃の修羅場に入りたくなかったため、自分の実力を低く見せていたのだ。