名伯楽・平井コーチとの強い絆
そして、東洋大学進学を決めた平井コーチの存在も、そうだ。
平井コーチが「大丈夫だ」と言っても前向きになれず、ネガティブな発言ばかりする大橋と衝突することもしばしばあった。それでも平井コーチは、大橋を見捨てることなく、根気強くずっと向き合い続けてくれた。
誤解を恐れずに言えば、大橋にはアスリートとしての「甘え」と言われるところもあるのかもしれない。自分と向き合い、自分の強みと弱みを理解し、そのどちらも受け入れて、たったひとりでスタート台に立つ。それが個人競技である水泳選手の矜持でもある。翻って、大橋はそれと相反すると言ってもよいほど、人に弱さを見せるのだ。
だが、それが大橋悠依という選手なのだろう。大橋の「甘え」を理解し、支え、助けてくれる人が大橋の周りには集まってくる。それこそが大橋悠依という人が持つ魅力のひとつであり、アスリート大橋悠依の力の源でもあるのだ。
大橋は五輪のレース後、こんな風に語っている。
「いちばん迷惑をかけたのは平井先生。自分でもたくさん考えるなかで、ぶつかることもありました。自分が悪い状態のときも見捨てずに見てくれました。本当に感謝しています。それに、大学の同期の岡田さんは、私の素性をいちばん知っている人です。良いときも悪いときもそばにいてくれて感謝しています」
「全力で真面目に取り組み続けていれば、必ず助けてくれる人が現れる」
ロンドン五輪とリオデジャネイロ五輪の200mバタフライで、2大会連続銅メダルを獲得した星奈津美の言葉が思い出される。
「大切なのは、自分の夢を口にすること。その夢に向かって練習などのやるべきことに真剣に向き合い、取り組み、努力を惜しまないこと。全力で真面目に取り組み続けていれば、必ず自分の努力を見てくれている人がいて、助けてくれる人が現れる。そういう人たちがいるから、また頑張れるんです」
大橋は人に恵まれている。
その理由はやはり、最後の最後は自分の脚で立ち、困難に立ち向かうべく努力を怠らなかったからだ。ネガティブになるのも、真面目に自分の泳ぎを分析し、ライバルと比較し、自分に足りないところを追求し過ぎてしまうからである。