同じ金メダル候補と言われていた瀬戸との大きな違い
「甘え」を内包しながらも、大橋はとにかく頑張ってきた。目の前のことを100%こなす努力をし続けてきた。だから、大橋の周りには魅力的な人が集まり、大橋を支え、助けてくれるのである。
ふと考えたのは、大橋同様個人メドレーで「金メダル候補」と言われ続け、長らくプレッシャーを受け続けてきた瀬戸大也には、本音で弱音を吐きだせる味方はいたのだろうか? ということだ。2人の結果の差は、そんなところにあるように思えてならない。
そして大橋の面白いところは、どれだけ人に甘えていても、どれだけネガティブループに陥っていたとしても、最後の最後、特に勝負どころではバチッとスイッチが切り替わる瞬間があるということだ。
決勝レースの前は、いつも笑顔で入場してくる
レースの入場シーン。
大橋はだいたい笑顔で観客席にいるチームメイトたちに手を振りながらプールに入ってくる。予選や準決勝ではどこか緊張した面持ちのときも多いのだが、なぜか決勝レース時にそういった雰囲気に飲まれたような、臆した表情を見せたことがない。
だいたいは吹っ切れたような笑顔を見せつつ、その大きな瞳で真っすぐに前を見つめ、レーン前に立つ。大きくひとつ深呼吸をして、スタート台に上がる。その瞬間にはネガティブで人に甘える大橋の姿はなく、獲物を狙うライオンのような獰猛ささえ感じるほどのアスリートの大橋悠依がそこにいる。
どれだけ人が助けてくれても、競泳という競技は、最後は自分との戦いだ。
怖さに打ち克ち、自分を信じるしかない。そのスイッチを入れられるのは他人ではなく、自分だけ。
大橋は人に支えられ、助けられたうえで、最後は自分でスイッチを入れることができる。だから初の五輪という大舞台で、競泳の女子選手として初の2冠という快挙を成し遂げることができたのだろう。