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《決勝進出ならず》競泳・瀬戸大也が抱える“お友達人事”の弱点 「ちょっと信じられない」発言の裏にあった真実――東京五輪の光と影

0.32秒差でこぼれ落ちた決勝進出の切符

 すべてのレースが終わり、予選の総合順位が出たとき、決勝進出ラインの8位までのリストに、瀬戸の名前はなかった。

 電光掲示板が切り替わり、9位以下の選手たちの名前が表示されたとき、そのいちばん上に瀬戸の名前があった。そう、総合9位。8位の選手とのタイム差は、たったのコンマ32秒。瀬戸の金メダルへの挑戦が、音を立てて崩れさった瞬間だった。

予選通過ラインを「読み間違えた」と語った瀬戸 ©JMPA

「今まで練習してきたことを確認しながら泳いでいたので…ちょっと、信じられないです。自分の読み間違いというか、決勝に進めなくて残念です」

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 顔面蒼白とは、このことを言うのかというほど、瀬戸の顔から血の気が引いていた。

 この400m個人メドレーの敗北の裏側にあるのは、「経験の差」である。選手の経験ではなく、指導者の経験である。

必要だった“指導者の経験値”

 五輪や世界選手権などで戦うとき、選手ひとりの力では到底、勝つことなど難しい。そこには信頼する指導者がいて、迷ったときに、間違ったときに自分を正し、ときには緻密に計算を重ねてレースプラン、勝負プランを導き出す。

 そんな指導者がいてこそ、選手は輝く。

 今回、瀬戸が師事していたのは、同級生コーチの浦瑠一朗である。ここで、彼の指導力云々を言うつもりはない。少なくとも瀬戸自身が指導者として彼を選び、二人三脚でこの先の競泳人生を歩むことを決断したことは、何も悪いことではない。

昨年から瀬戸のコーチを務める浦瑠一朗氏。瀬戸とは幼馴染の同級生だ 本人のインスタグラムより

 ただ、五輪という舞台で金メダルという真の世界一を目指すには、選手だけではなく、指導者の経験も必要なのである。

 今回の大きなポイントとなったのは、「読み間違い」だ。瀬戸陣営は、決勝進出ラインが4分10秒前後だと読んでいた。確かに8位の記録が4分10秒20だったのは読み通りなのだが、瀬戸がそのギリギリの通過で良い、と考えたことがひとつ。競泳競技は、200m以下の種目は準決勝があるので、予選を通過できるのは16位までの選手だ。だが、400m以上の種目はその準決勝がなく、決勝進出の8人がそこで決まってしまう。それを逃すと、もう二度とチャンスは巡ってこないのが、400m以上の種目なのだ。