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37歳荒木絵里香「娘はいかないでと大泣き、玄関先にはバリケードが…」 “子育てとの両立”を支えた女子バレー中田久美監督の“言葉”――東京五輪の光と影

2021/08/15
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骨盤や股関節が緩み、歩くこともままならない産後

「だって、パパさんアスリートなんていいますか?」

 確かに、荒木の言い分も分からなくはないが、出産し子育てをしながら現役を続ける女子選手が少ないため「ママさんアスリート」と強調されることが多い。だからこそ、と荒木が言う。

「私が言い続けないと、この言葉は消えないじゃないですか。早く、子供を産んでも当たり前に活躍できるスポーツ環境になってほしいなという願いを込めて、抵抗を続けてきました」

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 だが、子供を持つ女性アスリートがどんなに強い意志を持っても、環境が整わなければ厳しい。幸い荒木は、元ラグビー日本代表選手だった夫が精神的にサポートし、母が子育てを手伝ってくれた。

8月2日ドミニカ戦第1セット、スパイクを放つ荒木 ©共同通信社

 その一方、自身の葛藤もあった。女性は出産すると身体機能が大きく変わる。骨盤や股関節が緩み、普通に歩くこともままならない。授乳のためホルモンバランスも変わり、トレーニング効果も出にくい。いわば大怪我から長いリハビリ期間を経て復帰するようなものだ。体の変化に耐えられなくなり、この時点で復帰を諦める女性アスリートは多い。

 そして何より辛いのは、子供と離れ離れになること。ロンドン五輪で銅メダルを獲得した翌年に結婚、14年に娘を出産した。毎年日本代表に選ばれている荒木は、長い合宿生活や海外遠征、国際大会をこなさなければならず、家を出るときは決まって身を引きちぎられる思いをしてきた。

 ある時は、娘に「いかないで」と大泣きされ、またある時は玄関先にロープを張ったバリケードが作られていた。娘は日本代表をニッポンと称し、「そばにいてほしいのに、それでもニッポンに行く意味あんの」と訴えられたことも。