不慮の事故や突発的な病気など自分の身に万一のことがあった時、パソコンやスマホに残された個人的なデータがどうなってしまうのか、ふと不安になったことがある人は多いのではないでしょうか。人に明かしたくないメールや写真など、誰でもひとつやふたつはあるもの。家族に内緒で運営していたホームページやブログ、SNSのアカウントなどもあるかもしれません。
またこれとは逆に、パソコンやスマホの中には、残された家族らにどうしても伝えなくてはいけない情報もあります。家族の写真やお世話になった人の連絡先、ネット銀行の口座番号や相続にまつわる情報……。パスワードが解除できなければ、残された家族がそれらを見ることは永久にできなくなってしまいます。
もし、家族が自力でパスワードの解除に成功してなんとかログインできたとしても、それらの伝えたいデータをきちんと見つけてもらえるかは分かりません。伝えたいデータは見つけてもらえず、その一方で見せたくないデータは見つかってしまうという、最悪のケースもありえます。
これからますます多くなっていくであろう、こうした「デジタル遺品」にまつわる問題に取り組んでいるのが一般社団法人デジタル遺品研究会ルクシー(LxxE)の理事であり、『ここが知りたい! デジタル遺品』の著者である古田雄介さんです。文春オンラインの連載でもおなじみのテクニカル・ライター山口真弘さんが話を聞きました(♯2、♯3も公開中)。
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最後の家族写真がパスワード入力ミスで消えてしまった
──最近よく「デジタル遺品」という言葉を耳にするようになりましたが、具体的にはどのようなモノを指してデジタル遺品と呼ぶんでしょうか。
古田 一般的には、デジタル遺品といえばパソコンやスマホに入っているデジタルデータや、オンライン上のSNSなどのアカウントのことを指しますが、私たちはそれに加えて、パソコンやスマホなどのハードウェアもデジタル遺品に含めています。遺族にとっては、デジタルデータをデジタル遺品と定義しても、結局パスワードが分からずに入れないのはパソコンやスマホ自体だからです。
ですので、カテゴリーとしては、パソコンやスマホなどの情報端末、オフラインのデータ、それからオンラインのデータの3種類が存在することになります。なかでも、意外と遺族が気づかずに放置しているのがオンラインの遺品で、リスクも高く深刻です。
ただ結局は、パソコンやスマホのパスワードが開ければどうにかなるし、開けないとどうにもならないことが多いのが現状ですね。実際、我々のところに相談に来られる方で一番多いのは、パスワードが分からずにスマホが開けないという相談なんですよ。
──これまで相談が来た中で、これは大変だったというケースを教えてください。
古田 60代の女性で急死した旦那さんのスマホのパスワードがわからず、ロックが開けないで困っているという相談がありました。亡くなる前にいった家族旅行で、みんなが笑顔でうつっている写真がどうしてもほしいということだったのですが……相談に来られた時点でスマホはほぼ工場出荷時の状態に戻ってしまっていました。奥さんは家族の誕生日やペットの名前など思いつくかぎりのパスワードを入れたんですが、それが災いして、最後の写真も含め、データがすべて失われてしまったんです。
別のケースでは、自殺した弟さんのスマホを、お姉さんがパスワードを5回試したけどうまくいかず、それ以上ミスをすると初期化される恐れがあるので触らずにおいたんですね。ところが、それを知らないお母さんがパスワード入力を試してしまい、データが初期化されてしまった、ということもありました。
──それは辛いケースですね……。
古田 旦那さんが事故死した奥さんから連絡が来たこともありました。旦那さんのスマホに同僚と思われる人からの「大丈夫?」というLINEやTwitterのメッセージがどんどん届く。でも、指紋認証も通らないしパスワードもわからないので、返事も出来ず、事情も説明できず、自分にはどうすることもできないから助けてほしいとと。大切な人がなくなって、遺品のスマホは自分の手元にある。そこには故人につながる情報が確実にあるのに、何ひとつ手を出せない。これは本当に切なかったですね。