いまや大きな社会問題となっているデジタル遺品。若くて健康であっても、いつなんどき思いがけないアクシデントに見舞われる可能性はゼロではありません。プライベートなデータを自分の死後に誰かに見られてしまうのではという恐怖もあれば、遺族に託すべき重要なデータをきちんとみつけてもらえるのかという心配もあるでしょう。今回は、「万一の事態」に備えて、どのような準備をしておくべきかを、デジタル遺品研究会ルクシー(LxxE)理事の古田雄介さんに聞いていきます(♯1、♯3も公開中)。
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膨大なデジタルデータ、まずどこから手を付けるべき?
──自分に万一のことがあったら、という不安は誰しも持っていると思いますが、デジタル遺品について、私たちはまずはどこから手を付けるべきなのでしょうか。
古田 パソコンにせよスマホにせよ、デジタルの所持品を全部把握するのは大変な作業ですので、まずは「他人に見られたくないもの」と「家族に託すべきもの」を自分のなかで認識すること。そのために、パソコンやスマホの中に何があるのかを把握するところから始めるのがよいと思います。
たとえば、他人に見られたくないものだけをパソコンの中にうまく隠していても、家族に託されるべきネット銀行の口座の情報が見つからない、もしかしたらパソコンの中にならあるかもしれないとなると、遺族は必死にパソコンの中を探し回りますよね。そうするとせっかくうまく隠していた、他人に見られたくないものまで一緒に見つかってしまいかねないわけです。
逆に家族に託したいと思って「これを頼む」と言っておいたにもかかわらず、家族にパスワードを伝えていなければ、結局開けずに困ってしまうこともあります。ですので、まずは「他人に見られたくないもの」「家族に託すべきもの」、それと「どうでもいいもの」とに分けます。どうでもいいものは最終的に無視してしまって構いません。
──家族に託すべきものというのは、具体的にはどんなものが挙げられますか。
古田 ひとつはさきほども挙げた、ネット口座や証券、あとは仮想通貨などのお金関係ですね。これらは放っておくと遺産分割協議がやり直しになる可能性もありますし、証拠金取引の場合は負債が発生することもあります。これらの口座などの情報は死後に確実に伝わるようにしておくべきです。
あとは家族の写真など、思い出関係ですね。それ以外だと、自営業で仕事をしている方であれば進行中の仕事のデータを持ったままになっていることもあるでしょうから、相手が欲しがるものは必ず渡しておくのがいいと思います。
「この趣味のことだけは家族にも友人にも知られたくない」
──その一方で、隠したいものは……?
古田 人によると思いますが、知られたくない相手の連絡先や、恥ずかしい画像や不倫相手とのツーショットなどのデータがよく挙げられますね。あるセミナーの後に30代の男性に相談されたことがあります。インターネット上のイラスト共有サイトで成人向けの作品を発表しているということでしたが、「万が一のことがあっても、家族や友人にはこの趣味はどうしても知られたくない」と切実に訴えておられました。
とはいえ、遺族に託すべきデータがきちんとアクセスできるようになっていれば、遺族は面倒な作業をしてまでそれ以外のデータを取り出そうと思わないでしょうから、こうした隠したいデータが見つかる可能性はそれほど高くはありません。
ただ、だからといって野放図にしておくと、パソコンやスマホをそのまま中古に出されて、まったく知らない人の手にそれらのデータが渡ってしまうことも有り得るので、処理はきちんとしておく必要があります。なので、託すべきデータと隠したいデータは、やはりセットで考えないといけないんですよ。