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確実なのは「人」

──先ほどの話で、遺族の対応によっては、自分が死んだあとにデータが入ったパソコンなどが中古品として世に出てしまう危険性を指摘されていましたが、それならば発想を変えて、GoogleドライブやDropbox、Evernoteなどのオンラインストレージに置いておくというのはどうですか。

古田 これが難しいんですよね。1年前の話ですが、Evernoteが規約を変えようとして、世界中で猛バッシングを浴びたことがありました。今までは持ち主の秘密はきちんと厳守するよと言っていたのが、一部の社員は勝手に見てもいいという規約に改訂しようとして、ふざけるな、となった。

 でもあれは、ユーザの猛反発がなければ、おそらく規約が改訂されていたはずです。データがオンラインにあるということは社会に遺品が放置されているということなので、社会の変動によって、扱われ方が変わるリスクがあるんですよね。

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 ですから、やはり確実なのは「人」なんですよね。信頼できる人に死後のことを託すのがベターだと思います。より完璧を求めるなら、亡くなった時に本人の代理でいろいろな処理を行ってくれる死後事務委任契約というのがあって、パソコンやスマホの処分といったオプションを用意している弁護士さんや行政書士さんもいますので、相談してみるのもひとつの手ですね。

 ただ、死後事務というのは、遺族の協力なしでは実現できない。だから遺族に完全に内緒で、このデータは削除しておいて、というのはなかなか難しい。遺族に「これは触ってくれるな」ときちんと言っておけば、見なかったことにしようとなるかもしれませんが。

独身者に便利なソフトや製品も登場

──ここまでの話では亡くなった人に家族がいることが前提になっていますが、いまどきは結婚せず生涯独身という人も多いと思います。そういった独り身の人の場合はどうでしょうか。

古田 逆に独身者であれば、先に述べた死後事務委任契約を結ぶにあたって障壁になる人もいないので、これを削除しておいてと士業さんにお願いするのはありかなと思いますね。

 あと、独り身の人でデータを完全に削除したいのであれば、Windows専用の『死後の世界』というソフトを使う手もありますね。このソフトを入れておけば、30日間アクセスしない場合や、指定した日にアクセスしなければ、前もって指定しておいたフォルダーを削除してくれます。継続してアクセスしていれば指定日を繰り越す設定もできますので、独り身の方のニーズには合いますね。

 それ以外だと、センチュリーが販売している「JIGEN」という外付けハードディスクは、こちらも一定期間アクセスがなければ自動でデータを削除する仕組みで、最大で9999日まで設定できます。データは暗号化されていて、いったん削除したら絶対に復元できない設定になっているので、削除したいデータはその中に入れておくといいと思いますね。

 あとMacだと、FileVaultで暗号化設定をする際、Apple IDの認証を必要としない復旧キーだけで解除できる設定にしておけば、自分が死んだ時に、そのMacの中を誰も見られなくすることはできますね。

──つまり削除するのではなく、入り口を塞いで情報を外に出さなくするわけですね。

古田 そうです。ただFileVaultのような暗号化の仕組みは、現在は鉄壁ですが、10年後にどうなっているかは分からない。以前、セキュリティの高さを売りにしていたビジネス系の折りたたみケータイも、いま『携快電話』などのソフトを買ってくれば簡単にパスワードを解析できてしまう。デジタル機器はいま鉄壁であっても、将来の脅威には対応できないので、100パーセント安全というのは有り得ないと考えたほうがいいですね。

 逆に言えば遺族の方は、今の技術やシステムでは開けないスマホがあってもあきらめないでほしいのです。そこに取り出せていない大切なものが入っているのなら、諦めて中古品に出して処分したりせずに、ひとまず通信契約だけは解約して端末自体はずっと持ち続けておく。そうすれば、将来的に見られるようになる可能性もあります。時代とともにどんどん技術や仕組みも進歩しているということを伝えたいですね。

──いますぐ結論を出すのではなく、将来の技術に託すというわけですね。


◆今回のポイント

(1) まずは「他人に見られたくないもの」と「家族に託すべきもの」を把握する
(2) 託すべきものを目立つところに置くことで、見られたくないものを隠すことができる
(3) 死後事務委任契約を結んだり、ソフトを使ってデータを削除する方法も

◆「デジタル遺品最前線」の第1回と続きはこちらです!
♯1 自分のパソコンやスマホを残して死ねますか? http://bunshun.jp/articles/-/4808
♯3 亡くなった家族が遺したパソコンやスマホ──まず何をするべきか? http://bunshun.jp/articles/-/4812