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体重がとうとう30キロ台に

 問題は他にもありました。うつが悪化していくにしたがって、ほとんど食事をとらなくなり、体重がどんどん減っていったのです。

 食べなくなったのは飲みこみが悪くなったからです。むせたり、のどの違和感が嫌だったのでしょうか。若いころの主人は食べることが好きで、あるときは夕食に10品も作ったことがあるほどです。それでいて学生時代のズボンがずっとはけるほど体型を維持できていたのは、山男なので、たくさん食べて、いっぱい体を動かしていたからでしょう。

 作家になってからも肥満には無縁で、やせ型でした。だから食べなくなってしまうと、見る間にやせ細っていき、体重もとうとう30キロ台にまでなってしまったのです。私も主人の好きなものばかりを食卓に並べたのですが、手を付けません。体重が落ちるのとあわせて、次第に気力も失っていきました。

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 幸いなことに、頼りにしている担当編集者の方の奥様が看護師さんで、その方の勧めにしたがって、噛まなくても栄養をとれる流動食を試してみたところ、だんだんと食欲が戻ってきました。

 体重が戻ると、うつの症状も次第に快方へ向かい、紙に言葉を書いて貼ることもしなくなりました。

うつに加えて認知症の症状が出た

 うつは快方に向かいましたが、主人を苦しめていたものは他にもありました。もの忘れはうつのせいだと思っていましたが、ほぼ同じ時期から認知症の傾向も見られるようになったのです。

 老人性うつと認知症は紙一重だそうで、どちらかを発症すると、もう片方も併発しやすいそうです。主人の場合は、うつが先に見つかって、そのあと認知症が見られるようになったのです。主人は80代でしたから、認知症の症状が出ても不思議ではありません。私の親類にも認知症になった者は何人かいます。それでも、なぜか私は、主人が認知症になるとは考えたこともなかったので、正直にいえばショックでした。

森村誠一『うつ病を乗り越えた夫婦の証明』老人性鬱病、認知症との壮絶な戦い」の全文は「文藝春秋」2021年9月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

文藝春秋

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2021年2月6日 発売