同じ作業をしているのだから、何も問題がなさそうに思えるが、大きなミスがある。それは残り時間を計算していなかったことだ。
このときの試合の開始時間を考えれば、この方法では間に合わなかった。時間がほとんどないのであれば、土を掘り起こす作業を二段階にする必要があったのである。
まずは浅く掘り起こし、グラウンドの上側を乾かす。上側が乾いてきた時点でその下の土を深めに掘り起こし、乾いた土と混ぜ合わせながら日に当てていく。そうすれば、短時間で効率よく、ぬれたグラウンドを乾かすことができたはずだ。
もしも雨が上がったあとの天気が悪いようなら、そもそも掘り起こすことはできない。表面にブラシをさっとかけて乾かすしかない。
それでは軟らかすぎるのではないかと思われるかもしれないが、あらかじめ雨対策を施していれば、甲子園のグラウンドだとある程度の硬さになる。私たちには、「水はけも水持ちもよく、弾力のあるグラウンド」という土台がある。その上で、状況にぴったり合った整備をするからこそ、どんな天候にも対応できるようになっている。
水が引きやすいところと引きにくいところをしっかり把握しているというのも、雨の日に私たちが力を存分に発揮できる理由になっているのかもしれない。
地面に雨が降ったとき、全面積が一気に水たまりになることはない。高低差があったり、日の当たり具合が違ったりするからだ。
甲子園のグラウンドも、ピッチャーマウンドを頂点として、傾斜がある。試合直後には、選手の足によって踏み荒らされたところとそうでないところで高低差ができる。日当たりのよさにも差がある。日ごろから仕上げている硬さも、場所によって違う。
そのようなグラウンドの各所の性格を知っているから、私たちはそれぞれの場所で水が引くまでの時間を計算できる。雨が降ったときに、どこは放っておいても大丈夫なのか、どこはすぐ手を入れなければならないのかの判断を瞬時に下せるからこそ、雨上がりのグラウンドをすぐに回復させられるのだと思う。
ほめどころはシートがけではない
次の日が雨の予報だったので、前日にシートを張った。翌日、無事に試合ができた。ここで、
「さすが甲子園!」
とは思わないでほしい。
私は、基本的にグラウンドにシートを張りたくない。
シート張りは、一番ほめてほしくないポイントの一つだ。
シートを張っていたために、翌日、試合ができる。これは、私たちでなくても、だれでもできることだ。むしろ、私たちよりもすばやく、正確にシートを張れる専門の人はいるだろう。
シートを張るのは、次の日に試合が予定されていて、かつ雨が降りそうなときだ。前日にシートをかけておいて雨を遮り、グラウンドがぬれないようにしようという単純な話である。
ただ、雨が試合開始時間のかなり前に止みそうなときは、基本的にシートは張らない。天気にもよるが、雨が上がってから時間があるなら、その間にグラウンドの水分は蒸発するからだ。前日にすでに雨が降り始めている場合もシートを張れない。水分の蒸発を遮ってしまい、逆に土の状態を悪くしてしまう。