第100回を迎えた夏の甲子園、球児たちの陰でひときわ注目を浴びている人たちがいる。その名も、「阪神園芸」。甲子園での試合を支える、最強グラウンドキーパー集団だ。

 彼らのグラウンド整備の美しさに酔いしれる野球ファンが続出。「阪神園芸」は、一躍甲子園のトレンドワードとなっている。その人気にかこつけて、『阪神園芸 甲子園の神整備』という本まで出てしまったくらいだ。

神整備された甲子園球場

 人々を惹きつける彼らの魅力とは何か。それはこの本の中にすべて詰まっているが、今回は高校野球に寄せた特別番外編として、著者の阪神園芸チーフグラウンドキーパー、金沢健児氏に職人技の神髄についてのインタビューを行った。

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「もはや芸術の域」

「今年は、夏の甲子園100回の中で、一番きれいなグラウンドになったと自負してますよ。まあ、100回分の画像を全部見て比較、というのはできないんですけどね」

 すごいことを淡々と語る金沢氏。阪神園芸のグラウンドキーパーを束ねるリーダーである。

 甲子園といえば、いつ見ても青々とした天然芝、白いラインが映える内野の美しい黒土。天候や気温によってくるくると変わるグラウンドのクオリティーを保つべく、毎日たゆまず手入れをしているのが、阪神園芸のグラウンドキーパーたちである。芝はきっかり15ミリに刈り揃えられ、土をならす整備カーはマウンドを中心に見事な円を描き、一糸乱れぬ散水はグラウンドに虹をかける。あまりの手際の良さに、「もはや芸術の域」と感嘆する観客もいるくらいだ。すべての技を習得して一人前になるには、10年はかかると言われる、匠の世界である。

 

 ただ、阪神園芸の本当のすごさは、雨の日にこそ発揮される。そもそも、彼らが「神整備」という異名を取ったのは、昨年のセ・リーグクライマックスシリーズファーストステージ。2日間も雨に打たれ続け、泥沼のようになった甲子園のグラウンドを、ものの4時間半で回復してみせたときだった。グラウンド各所の特性を知り尽くし、雨上がりの整備ノウハウを蓄積していた彼らだからこそ成し遂げられた偉業である。それ以降、ほかの屋外球場でも雨が降ったときには、「阪神園芸を連れてきて」というメッセージがSNSを飛び交うようになった。