高校球児はなぜ丸刈りなのか。
球児の髪型が坊主であるのには何か合理的な理由が存在するのだろうか。
100回を迎えた夏の甲子園。その出場56校の9割以上が“坊主派”である。必然、圧倒的少数派として“脱坊主”の高校は脚光を浴びる。
旭川大高校(北北海道)は「丸刈り禁止」という規律を掲げていたため、大会前から大きくクローズアップされた。しかし取材を行うと単純ではない「球児と丸刈り」の関係が見えてきた。
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高校野球の場合、脱坊主にもさまざまな事情がある。旭川大は「脱坊主=自由」ではなかった。
「坊主禁止」は「長髪禁止」と変わらない?
「坊主禁止令」が出たのは、正月明けのことだった。理由は、とある選手によると「僕らがやらかしちゃったので……」とのこと。
そのときの様子を鈴木克昇(3年)が振り返る。
「驚きましたけど、僕らはそれに従うしかないので。理由としては、坊主を禁止にすれば注目を浴びて、負けたら髪の毛を伸ばしてるからだとヤジられる。そのぶん、努力しなければならなくなるという話でした」
選手の話振りは「自由」とはもっとも遠いところにあるように感じられた。
たとえば、慶応の選手らは「頭髪自由」だから伸ばしているだけで、坊主にしてはならないというわけではない。そこへ行くと「坊主禁止」という決め事は、強制するという意味において「長髪禁止」と変わらないともいえる。
「大前提として、うちは管理野球です」
その違いを説明してくれたのは山本博幸部長だった。
「大前提として、うちは管理野球です。最近は個性を尊重しなければいけないと叫ばれていますが、17、18歳の高校生に自主性があるとは思っていません。選手はガチッとした中で成長するもんだと思ってますから。坊主禁止も、決まり事がひとつ増えただけのことです。一塁まで全力疾走しようというのと同じこと。それによって高校球界を変えようとかはまったく思ってない。ただ、伸ばすとなると、どこまで伸ばせばいいか考えますよね。(哲学者の)サルトルが『自由はいちばん難しい』というようなことを言っていますが、あえて難しい課題を与えたのだとも言えます」
つまりは、逆説的だが「自由というルール」を課したのだ。そのねらいを山本部長は、こう話す。
「たとえばバントのサインが出たとして、相手の内野陣が極端に前に突っ込んできたら打ったっていい。そういう自己判断ができる選手になって欲しかったんです」
ところが山本部長によると、甲子園出場を決めた後、脱坊主は「脱管理」「脱強制」という紋切型のイメージでとらえられ、放任主義に転換したことで強くなったと受け取られかねない報道があったようだ。