高校球児はなぜ丸刈りなのだろうか。
100回を迎えた夏の甲子園。その出場56校の9割以上が“坊主派”だという。
もはや「球児=丸刈り」というイメージは当たり前すぎて、疑問すら持たない人が大半かもしれない。
しかし球児の髪型が坊主であるのには何か合理的な理由が存在するのだろうか。坊主でなければ高校野球では勝てないのだろうか。
10年ぶりとなる夏の甲子園で初戦勝利を飾った、“脱坊主派”慶応高校の野球部を取材した。
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汗に濡れた長い髪が、ナイター照明に照らされて光っていた。大会1日目、第3試合。バックネット前に整列し、脱帽して塾歌を歌う慶応の選手たちだ。
一方、三塁側ベンチの前では、きれいな坊主頭の選手たちが涙に暮れていた。敗れた方の中越の選手たちだ。
高校球界では、中越が「普通」で、慶応が「特殊」だ。しかし、世間一般では、それが逆になる。
105名の部員、坊主はゼロ
自由なチームカラーに憧れて慶応を選んだという杉岡壮将(2年)は話す。
「信念があって坊主にしているなら、それはいいと思います。でも、なぜそうさせられているかわからないのであれば、かわいそうですね」
慶応の頭髪は、基本的に自由だ。ただし、前髪は帽子からはみ出さない程度に短くすることと、極端な「ツーブロック」などの奇抜なヘアスタイルはNGという暗黙の了解事項は存在する。
部長の赤松衡樹は「僕が知る限り、慶応はずっと頭髪に関しては自由です」と話す。
もちろん、時折、自主的に坊主にする選手はいるが、現在部員は総勢105名、坊主らしい坊主の選手は誰もいないという。その理由を杉岡はこう話す。
「坊主だと、逆に浮いちゃうんで(笑)」
慶応の選手たちは、中学時代はシニアやボーイズリーグといった硬式野球クラブに所属していた選手が多く、それらのクラブチームも、半強制的に坊主だったそうだ。
髪型を見て「野球辞めたの?」
斎藤俊(2年)は、こう困惑気味に話す。
「中学時代の知り合いに会うと『野球辞めたの?』って言われます。髪が長いんで、高校野球をやってるようには見えないんでしょうね」
そんな現状を赤松部長はこう憂えている。
「野球界にはいろんな誤解がありますよね。坊主じゃないと、ちゃんとしていないように思われるとか。うちは常に『エンジョイベースボール』というのを掲げているのですが、楽しむと言うと楽な方向へ行ってると勘違いされる。でも楽しいことのためじゃないと、辛いことに耐えられないじゃないですか」
慶応は学校自体、ほとんど校則がない。「制服のときは黒の革靴を履く」という程度だ。再び杉岡が説明する。
「先生方も校則がないのは自分で考えて行動するためだと言っています。自己責任だと。そっちの方が、変なことはしなくなると思います」