7月26日、阪神対広島戦での「ファインプレー」
実は、今回の高校野球開幕直前にも、彼らのファインプレーがあった。7月26日、甲子園で行われた阪神対広島戦。試合開始18時のわずか2分前に降り始めた豪雨で、グラウンドは瞬く間に水が浮く状態に。しかし、18時20分ごろに小ぶりになると、驚異的なスピードで水が引いていった。グラウンドキーパーたちが登場したのは18時35分ごろ。効率よく水たまりに吸水パッドを並べ、砂をまき、19時過ぎには元通りのグラウンドを用意してみせた。
なぜそんなことができたのか。金沢氏は、「土の掘り起こしが効果的に働いた」と語る。
「甲子園の土は、黒土と砂が混ざったもの。毎日数センチずつグラウンドを掘り起こしてるんですけど、使っているうちに黒土はどうしても下に潜って水を通さない層を作ってしまう。だから、夏の高校野球前にもう少し深く掘り起こして、グラウンドの水はけと水持ちを回復させておくんです。26日は、たまたまそれが効きましたね」
高校野球期間中、突然雨が降ってきても耐えられるようなグラウンドに。そんな思いを込めて周到に準備をしていたのだ。しかも金沢氏は、突然襲った豪雨にも拘らず、「むしろあの雨はグラウンド的には良かったんですよ」とさらっと続ける。
「ずっと雨が降ってなかったでしょ。土の水分量が減ってきてたんで、グラウンドもそろそろ雨が欲しいところだったんですよ。弾力を維持するためにもね。まあ、あのタイミングであれだけの量じゃなくても良かったですけどね」
西日本豪雨に、どう対応したか?
雨をも味方につけるかのような金沢氏の話しぶりからは余裕すら感じられるが、実は7月上旬、甲子園のグラウンドは大きな危機を迎えていた。西日本豪雨である。各地を混乱に陥れたそれは、甲子園球場をも襲い、2日連続で大雨洪水警報が発令される事態に。金沢氏は、「あれだけの大雨が連続して降るのは、経験したことがなかった」と語る。
「それでも、土の方は大丈夫だったんですよ。ピッチャーマウンドを中心にグラウンドの傾斜をしっかり保ってるおかげで、大雨なら、周りの人工芝のゾーンに流れていってくれますし。ただ、芝はすごく悪くなった。もともと傾斜も緩いし、排水が追いつかなかったときに水に浸かる面積が広いんです。雨が止んだあとに見ると、フェンスの50センチの高さに芝が付いてたところもあったくらい」
しかも、甲子園の芝生は夏芝と冬芝の二毛作。西日本豪雨が襲ったのは、その二種類の芝がせめぎ合いをし、一年で一番ダメージを受けやすい時期だった。
「芝は、水に浸かって根腐れ起こしかけているところもありましたね。変色して、かなり見栄えも悪くなって。とにかくものすごい臭さ」
夏芝が例年以上に元気になっていった
1ヶ月前にこんな状態で、高校野球に間に合うのだろうか。不安になってしまいそうだが、金沢氏は続ける。
「とにかく、芝の全体にポツポツと穴を空けてから下地を乾かして、肥料を入れるという手当をしていきました。運良く、豪雨のあと、気温が急上昇したんです。うまい具合にさっと乾いて、夏芝が例年以上に元気になっていったんですよね」
こうして、第100回の記念大会には、史上最高のグラウンドが用意できたというわけである。結果オーライとは言うものの、天気次第では結果が変わっていたかもしれない。まさに綱渡りだ。
「もちろん、多少心配はありましたよ。気温が上がるという予報はあっても、自然相手だと何の保証もないんでね。大丈夫かな、いや、大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせながら。まあでも、最終的には、自分たちができることはやったしということで、どんと構えていましたけどね」
グラウンドがどんな状態であっても、阪神園芸ならなんとかしてくれる。確かな経験に裏付けされた職人技は、甲子園での試合を楽しみにする多くの野球ファンにとって、希望であり、誇りである。